https://jphaiku.jp/how/index.html 【俳句の作り方 巧者の弊害対策 】より
三尺の童にさせよ
松尾芭蕉は「俳諧は三尺の童にさせよ」と言ったそうです。
大人になると、頭に蓄積された知識が邪魔をして、おもしろ味のない句を作ってしまいますが、無垢な子供ならば、感じたままのことを、常識のフィルターを通さずに表現してしまうため、大人が驚くような、おもしろい句を作りやすいということです。
『お~いお茶新俳句大賞』の審査員であった文化功労者の森澄雄さんは、その講評の中で、
「俳句は奇異を弄せず平凡な人間の、だれもがいだく素直な思いを深く詠い、過ぎて行く止まらぬ時間の、いまの一瞬に永遠を言いとめる大きな遊びだと思っている。しかし、たいがい俳句に齢を重ねるにつれて、奇異や技巧を弄するようになる」
引用・『俳句とめぐりあう幸せ』好本惠/著 リヨン社
と述べて、子供たちの作品の初々しさを高く評価しました。
このため、『お~いお茶新俳句大賞』の受賞作品には中学生の句も多いです。
そこで、私も童心に返って、即興で俳句を作ってみました。
カピバラを 外に干し干し 冬の空
カピバラを 集めて狭し 我がお家
カピバラというのは、女子供に人気のぬいぐるみのキャラクターです。
これを妻に語ってみせたところ、
「あんまりふざけた句を詠んでいると、他人にドン引かれるよ!?」
と、怒鳴られました。
妻の言葉によると、
「カビバラなどという、特定の人にしかわからない言葉を使ってはならない。俳句は、普遍的に受け入れられるように作るべし」
「干し干し、などは意味のない重複で、単に文字数を稼いでいるだけに過ぎない。お家などという丁寧語もふざけている」
「冬の空、などという季語は、あまりにとってつけた感がある」
とのことです。
なにより俳句は、季節の情景の美しさ、風流を楽しむものです。その観点からすると、情景より、カピバラが好きだ! という気持ちを全面に押し出してしまたこの句は、失格と言えるでしょう。
「三尺の童にさせよ」といっても、ルールや技巧をまったく無視して、好き放題に作ってはならない、ということですね。
他の芸術に通じる
『多年俳諧好きたる人より、外(ほか)の芸に達したる人、はやく俳諧に入る』
これは松尾芭蕉の門人、服部土芳(はとりどほう)が書いた『三冊子(さんぞうし)』にある芭蕉の言葉です。
長年、俳句が好きでたくさん作ってきた人より、絵や小説など、別の芸術を極めた人の方が、早く本当の俳句の世界に入ることができる、という意味です。
芸術の世界では、技術が上がれば上がるほど作品がつまらなくなると言う、技術のパラドクスが存在します。
良い作品を作ろうと、身につけた技術を駆使して体裁を取り繕うあまり、表現からその人らしさが消えて、凡作しか作れなくなるのです。
この状態に陥ると、ただ他人から褒められる良い句を作ることだけに目が向き、俳句を作る楽しさが消えて、疲れ果ててしまいます。
このような巧者の弊害に陥ることを防ぐためには、別の芸術の分野にも秀でて、そこから獲得した経験、境地を俳句作りに役立てることだ、ということです。
実際に、松尾芭蕉と並び称される与謝蕪村などは、画家としても有名な人で写実と空想が一体になった独特の俳句を残しています。また、文豪として知られる夏目漱石は、正岡子規の影響で俳句作りにも励み、数々の佳作を残しています。
正岡子規も新聞記者として文章を書くことに熟達し、小説、評論、随筆など、多方面で活躍しています。
もっとも正岡子規は、小説家としては芽が出ず、高浜虚子らに「僕は小説家ではなく詩人を目指す」といった手紙を出していますけどね。
俳句作りに行き詰まりを感じた時などは、視野狭窄に陥っているかも知れないので、他の分野の芸術にも手を伸ばして、視野を広げてみるのが良いでしょう。
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