https://consumernet.jp/?p=4701 【予防接種ネット・de・講座 38回 子宮頸がん(HPV)ワクチン問題の過去と今】
接種再開の動きが取りざたされる中、2018年のはじめに、子宮頸がんワクチン問題についての経緯や問題点をまとめてみました。
子宮頸がんワクチン(HPV ワクチン)接種勧奨再開に反対します
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種勧奨の再開に反対する今回は、接種再開をもとめる動きが勧められている中、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の副作用被害の問題に絞り、必要性の乏しいワクチンが莫大な公費投入で導入され、重篤な被害が多発し、全国規模での集団訴訟に至った経緯と国の対応を示し、国が国民の健康を守るための医療政策と情報提供はどうあるべきかについて問題提起したい。
1子宮頸がんワクチン被害の背景
4大裁判1を経た1994年の法改正前後にもMMR事件2など全国的な予防接種被害が発生している。その後も日本脳炎ワクチンでの急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の発生による接種の中断と再開に関わる事件があった。しかし、ワクチンの必要性や安全性の議論はつねに有効性を重視した主張に押し切られてワクチンは増加してきた。
今、生後1年間に定期接種だけでも13回、ワクチンの種類では8種、最近増えている任意接種のロタワクチン(経口接種)も含めると15回から16回も1才未満の赤ちゃんにワクチンを投与しなければならない状況になっている。このため、複数ワクチンを同時に接種する「同時接種」が医師の裁量で認められているが、乳児突然死症候群として、毎年原因や評価不明のワクチン同時接種後の死亡が報告されている。乳児期の免疫系統が未熟な段階で、これほどの多くのワクチン接種が始められたのはここ数年のことであるが、未知の悪影響を危惧する声も多い。死亡だけでなく脳炎なども多発しているようだが、その潜在的な被害実態は明らかにされていない。
こうした背景の中、2009年の新型インフルエンザ騒動での外国製のワクチンの安易な導入に道筋がつけられた。
2がん予防ワクチンではない
子宮頸がんは、ヒトパピローマーウイルス(Human papilloma-Virus以下HPV)の感染の持続が原因だとの仮説が1976年にだされた。1983年に子宮頸がんの組織の中に、HPV16型が見つかり、それをもとに2006年に遺伝子組み換え技術をもちいてつくられたワクチンが子宮頸がんワクチンである。100種類以上あるHPVの中で、がん化に関連するとされるハイリスクHPVは約15種類あるが、今のワクチンは16型と18型の2種類のみに対応して作られた。16型と18型HPVの感染または前がん段階への予防となるとされている。日本人では両型が58.8%を占めるとされているが、16型と18型以外には効果がないことは添付文書にも明記されている。加えて、添付文書には、その予防効果の持続期間が確立していないと明言されている。抗がんワクチンとしては無効ということになるが、接種の際そのような説明はほとんどされてこなかった。
3初めに接種推進ありき
子宮頸がんワクチンは予防接種法上の定期接種としてではなく、2010年11月26日に基金事業接種(実質的には任意接種)3として導入された。2011年の3.11の震災、福島原発事故の混乱の中で、突如子宮頸がんの怖さやワクチンの有効性が強調されはじめた。初期のちらしや学校から保護者へのパンフレットでは、がんを予防できる効果が強調され、「中学入学お祝いワクチン」などとして、東京都杉並区を皮切りに接種が開始された。
2009年12月、グラクソ・スミスクライン社(GSK社)の「サーバリックス」が日本初のHPVワクチンとして発売された。国は翌年2010年11月28日、接種費用の9割を公費負担とする補正予算を組み、2010年度107億円、2011年度580億円を計上した。MSD社の「ガーダシル」も2011年8月に発売され、同年、日本は世界のHPVワクチン市場の4分の1を売り上げる“草刈り場”になった。ピーク時である2011年12月から2012年3月の3か月間では、サーバリックスは125万人、ガーダシルは24万人と149万人もの子どもに接種されたとされる。
それに先立つ2008年11月に子宮頸がん征圧を目指す専門家会議(野田起一郎議長)が、HPVワクチンの早期承認と公費負担の実現を目的として設立された。専門家会議は、HPVワクチンの啓蒙的提言、見解等の公表、政府や政党に対する要望書提出・勉強会の実施、自治体、議員、医療関係者、メディア対象のセミナー開催、記者懇談会の開催、海外の学会・国際会議へのツアー実施、啓発団体のサポートなどを行った。
2013年度から情報開示された「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」では2社からの専門家会議に対する寄付金が明らかにされている。2012年、MSD社が2000万円、GSK社が1500万円。2013年はMSD社2000万円・ジャパンワクチン社(GSKグラクソ・スミスクライン社と第一三共株式会社の折半出資の合弁会社。2012年7月2日に事業活動を開始)は1850万円。2014年と2015年はいずれもMSD社が1000万円の寄付をしている。日本でのサーバリックス販売開始の8ヶ月前まで、子宮頸がん征圧を目指す専門家会議の事務局にはGSKの元ワクチンマーケティング部長がいたとされる。
子宮頸がんワクチンは2009年6月から、GSK社との利益相反が推測される国会議員により、議員立法が目指されたが、単独立法ができず、二度の廃案の末、乳児用のヒブや肺炎球菌との抱き合わせ導入により、2013年4月1日より予防接種法が改正され定期接種A類になった。当初より医療界からも定期接種化には強い疑問の声があった。優先順位はおたふくかぜ、水痘、B型肝炎のほうが上だとの主張である。しかも、コストを考えると、子宮頸がんワクチンをやめれば、おたふくかぜ・水痘・B型肝炎全部が定期接種で可能になるとも言われた。しかし、子宮頸がん、ヒブや肺炎球菌の予算は、すでに事業接種として国および自治体の予算編成に入っていたため、新規の予算確保をする必要がないというご都合主義な事情から定期化が先行したのである。
4感染しても排除、検診が有効~ワクチンの必要性に疑問
HPVに感染しても、必ずがん化するわけではない。浸潤がんになるまでには、感染後10数年かかるとされている。通常、発がん性HPVの感染から子宮頸がん発症までには数年から十数年かかると言われている。この間、子宮頸部では扁平上皮内部における軽度から高度までの上皮内異型(前がん病変)が確認できるとされる。つまり、子宮頸がんはがんになる前の段階(前がん病変)が長期間続くため、この段階で病変を発見することが可能なのである。
2013年(平成25年)3月28日、定期接種化を目前に控えた参議院厚生労働委員会での矢島健康局長の答弁でも「子宮頸がんはハイリスクのHPV感染が持続して、30~40年後に発症する極めてまれな疾患」とされている。議事録に添付された資料でも、「HPVの子宮頸がん発症予防への関与は限定的であり感染後HPVは90%が排出、軽度の異形成になっても90%が治る」と説明されていた。がん化の過程としては、子宮頚部にウイルス感染した後、基底層の細胞が増殖を始めその上に異型細胞を作っていくが、新しく正常の細胞ができると異型細胞は剥がれていくのでHPV感染細胞のほとんどは消える。感染後LSILになっても、70%近くは正常に戻るといわれており、子宮頸がんは検診で対応可能な病気である。
それがなぜ、がん予防ワクチン、「中学入学お祝いワクチン」として大規模接種がされたのか。導入直後は20代以降の接種者もいたが、初交前でないと効果がないということと、20代の低年齢層に子宮頸がんの罹患が増えたという統計をもとに、「早めにワクチンを」との方針のもと、中学生から高校生の女子に接種対象が絞られたのである。
しかし、子宮頸がんはHPV感染から発症まで数年から十数年といわれているので、特に若年齢層の検診を充実させて、発見し治療することのほうが有効である。日本では検診受診率が低いので検診での発見と対応の充実こそが、子宮頸がん死を減らすためには必要である。
5被害の実態
子宮頸がんワクチンについては導入当初、接種直後の失神による転倒やアナフィラキシーショックが多発した。厚労省の審議会は、「接種後30分は様子を見るように」とか、「そんなに転倒するなら、寝た状態で接種すればよい」などと、HPVワクチン接種直後に起きた目に見える副作用さえも、これが原因とは決して認めなかった。審議会座長は「接種によるショックであり、ワクチン液によるものではないことを肝に銘ずべき」と発言している。メーカーはアナフィラキシーショックについてのみ継続的に報告をあげている。
しかし、その後の激しい疼痛をはじめ、ADEMやギランバレー症候群、記憶障害、認知症などの神経障害の多発については、厚労省が定期的に医療機関と製造販売業者からの予防接種後副反応報告書(後に予防接種後副反応様報告書と改名)はだされたものの、因果関係については一貫して否定され続けた。全国から集まった、重篤な副作用に苦しむ、車いすの少女たちがマスコミの前に名前や顔を出して訴えても「心因性のもの」として因果関係を認めようとしなかった。診療拒否や詐病扱いされた少女も多い。その後のさまざまな副作用の訴えに対しても心因性のものとか、日本の女子にのみ多発するのは日本人の特異性によるとされてきた。
2013年3月には被害者団体(全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会)が発足。各地で支部が設立され、学習会や院内集会、国への要請やメーカーへの抗議活動が行われた。厚労大臣への要請行動や被害者の訴えをうけた自治体議員、薬害オンブズパースン会議などによる被害報告の聞き取りや院内集会が開催された。筆者の関わるワクチントーク全国やコンシューマネット・ジャパン(CNJ)も2010年から今日にいたるまで、関係機関への申入れや情報提供を重ねてきた。訴訟の支援とともに、救済の支援活動も行ってきた。4
CNJでは、事業接種を開始するにあたって、市町村では予防接種賠償責任保険加入が義務付けられていたことから、自治体独自の救済の呼びかけや、20年には自治体独自保険の活用を全国の都道府県市町村の首長会あてに要請した。保険による支払は損保ジャパン等の引き受け会社によるものであり国が因果関係を認めなければ適用されないとされてきたが、PMDA(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency医薬品医療機器総合機構;任意接種等の副作用被害救済機関)で否定されたものへの適用例も徐々にでてきている。
6治療法の模索と難病財団の活動
2014年12月10日の日本医師会、日本医学会合同シンポ「子宮頸がんワクチンについて考える」において西岡久寿樹医師、横田俊平医師らが発表した副反応に関する研究の詳細報告が国の審議会に提出された。難病財団では、HPV接種被害患者を入念に診察し、病理学、ワクチン研究、免疫学、精神科、リウマチ科、神経内科、神経生理学、小児科などからなる検証チームを作った。
このチームは2,475例の症状をデータベース化し、詳細に検討した。メンバーの所属先の医療機関でも子宮頸がんワクチン接種後に一定期間を経てさまざまな症状を呈する症例が集積されため、カンファレンスを開いて基準案HPVワクチン関連神経免疫症候群(Human papillomavirus vaccination associated with neuropathic syndrome;HANS)を作成した。
HANSに基づいて診断をおこない、集積した104例を登録して、検討したところ、ここで見られる症状は、厚労省に報告があった接種後の急性期症状とはかなり様相が異なっていることが判明した。
2012年からの半年間で横浜市立大学小児科リウマチ・膠原病・繊維筋痛症外来に、ワクチン接種後に多様な症状を重層して呈する症例が集まっており、これらの症状の発現はワクチン接種後約6カ月の間に次第に重層化し、改善と増悪を繰り返す傾向にあった。厚労省の副反応基準であるワクチン接種後28日以内には収まりきらない症状をとらえ、多くのHANS患者が同じ臨床経過をたどっていることが明らかにされた。
これらの研究結果を踏まえて、運動系、感覚系、自律神経・内分泌系、認知・情動系と極めて多彩な症状を呈する病像が一人の患者に重層的に生じていることから、国が言う「心身反応」や「疼痛」に症状を絞るのは不適切であるとし、最も大切なことは、多彩な副反応を既知の疾患に当てはめることではなく、「新しい症候群」としてとらえ、その共通項に「HPVワクチン接種」が存在していることを明確にすることであるとし、患者救済のためにも、日本医師会・日本医学会が提案したHPVワクチン副反応診療ガイドラインの作成を早急に行い、全国のHANS患者の診断や治療の方針を確立することが最も緊急の課題である」と提言した。HANSは「脳症」であり、その4大症候は中枢神経由来であるとし、(1)記憶・情動障害(無気力・焦燥・幻視・幻聴・妄想・暴言・登校拒否・パニック発作・相貌認知障害・計算障害・集中力低下・学習能力低下)(2)感覚障害(疼痛・光過敏・音過敏・嗅覚過敏)(3)運動障害(姿勢維持・起立・歩行障害、不随意運動、痙攣)(4)自律神経障害(過敏性腸症候群・過食・過呼吸・喘息・発熱・低体温・発汗過多・サーカディアンリズム障害(睡眠障害)・生理不順・ナルコレプシ(居眠り病といわれる脳症)などに分類して症状を整理した。
こうした臨床研究とともに、これまでのワクチンとは異なる特性も指摘されるようになった。持続感染を目的にデザインされた新規のワクチンでは、接種後28日という副反応発症の枠ではとらえきれないことも明らかになった。
デンマーク、英国、オーストラリアの保健機関から副反応の詳細が公表されており、副反応の内容が日本と極めて類似していること、サーバリックスとガーダシルとの間に副反応の種類に大きな違いは認められないことも判明した。
7HPVワクチン薬害訴訟
2016年7月27日に東京、名古屋、大阪、福岡の4か所で第一次訴訟、同12月14日に第二次訴訟が集団提訴された。全国の原告総数は現在119名人である。訴訟は2企業の不法行為責任・製造物責任と、国の国家賠償責任・損失補償責任(連帯責任)に基づく損害賠償請求をしている。主な請求理由は、(1)ワクチンとしての有用性が欠けるにもかかわらず国が承認・市販したこと、(2)接種勧奨の要件が欠けるにもかかわず、公費助成・定期接種化により接種を勧奨したこと、(3)接種に関して、説明が不十分であったこと(添付文書・説明文書)等を問うており、真の救済(被害回復)と再発防止を目的としている。また、恒久対策として、研究体制・医療体制整備、教育や就職の支援、医療費等の支援、十分な情報提供、無理解・偏見の解消等を求めている。
原告被害者は、共通して、副作用等に全く疑問を持たず、うけるのが当然として接種したのち、被害が発生しても因果関係を否定され、さまざまな症状に苦しみながら何年も病院等を転々としている。その間の行政、学校、医師の対応がどうだったかなどを切々と陳述している。接種後の体調の激烈な変遷や治療法は未確立であり、身体的な被害により、苦痛や生活の変化を強いられ、登校もままならず、受験に失敗し、せっかく合格した学校にも登校できず、結局進路変更を余儀なくされるなど将来の夢を喪う。治療法がないために、治療法を求め民間療法も含めさまざまな療法をためし、これら治療や看護にかかる経済的負担も大きなものである。医療や看護に携わる家族の生活や仕事への影響も多大なうえ、周りに理解してもらえない苦しみに悩む一方で、原因究明と治療法の確立、再発の防止のための政策実現を主張している。
被告のメーカー側の主張は、導入前のワクチンの有効性の強調一辺倒である。原告の女性は陳述後にけいれんを発症して気を失ったり、傍聴をする被害者の中にも途中でけいれん発作を起こす人が出るなどの緊迫した状態のなかで審理が進められている。裁判には毎回傍聴券を求める長蛇の列ができ、遠方からきても抽選で外れる人も多い。2017年10月21日には、5HPVワクチン東京訴訟支援ネットワークが設立された。期日には全国からかけつけた多くの支援者が裁判の行方を見守る活動を行っている。
8法的救済は可能か
予防接種禍の法的救済が困難である原因の1つは、被害者運動の賜物である1994年の予防接種法大改正が、安全な予防接種行政推進するための改正のはずが、実は国の責任を回避するための法改正であったとしか思えない点にある。国は法や政省令を整備し、安全性のための手順は守っている。4大裁判の1つである東京予防接種裁判のときのように、禁忌者を見過ごして接種をしたことに国の「組織的過失」があったという理屈は使えなくなっている。問題になるのはメーカーの検定違反(MMR事件ではメーカー阪大微研の検定違反が問題とされた)や、接種医のうっかりミスだが、ワクチンそのものの問題については真っ向から証明することは難しい。まして世界的に接種拡大され、WHOが推奨しているワクチンについてはワクチンそのものの問題点を争うことは困難といってよい。救済体制は制度上は整えられているとはいえ、そもそも、因果関係が認められなければ誰の責任も問えない。
薬には作用と副作用があるが、ワクチンも同様である。副作用を「救済されるべき」有害反応ととらえると、なるべく被害発生を認めたくない国は副作用を副反応とか有害事象や紛れ込みなどという言葉に置き換え、副作用と認めようとしない。加えて、国は副反応との因果関係を狭く考える傾向にある。子宮頸がんワクチンでも、「心因性」のものとして副作用を端から否定しワクチンを擁護してきた。
これまでの裁判でも、予防接種の因果関係の証明は最大の争点だった。厳密な病理学的な因果関係が不明でかつ、ワクチン接種後の疾病発生状況についての疫学的観点からの正確な調査がされていないなか、司法は白木4原則6の考え方を採用することで原告被害者は勝訴することができた。予防接種に限らず、公害事件や薬害事件では因果関係を証明することは容易なことではなかった。
白木博士は、著書「冒される日本人の脳」のなかで、こう述べられている。「ワクチン禍の医学的解明は、ほとんど不可能に近いとみられた。・・ワクチン禍の総論または原則論を組み立てるのに参考になる医学関係のわが国の文献は全くないに等しいということで自分で考えて行くしかなかった。」として因果関係の立証のための白木4原則を考えだした。現にある被害は動物実験のように条件づけできないので、あるがままの状態を受け取る経験科学ととらえ、4つの原則論の組み合わせによって蓋然性が60%以上の確率によりワクチン禍の存在を肯定すべきとし、これが全国の裁判所に受け入れられた。
白木博士の卓越した点は、東京裁判以外の全患者を診察、CT、MRI、PET、脳波などの特殊検査を加味し、主として母親と近親者の詳細な聞き取り調査を行い、死亡した患者の剖検所見も参考として、その実態について総合的に把握することを怠たらずに証言した。その上で、因果関係の立証は、動物実験のように条件づけできないので、あるがままの状態を受け取る経験科学として、4つの原則論の組み合わせによって蓋然性が60%以上の確率によりワクチン禍の存在を肯定させたのである。
4大裁判後での大規模裁判となったHPVワクチン薬害訴訟であるが、白木博士の危惧していたことが現実問題となっている。(以下引用)すなわち、「正と負の効果(アレルギー反応とワクチン禍)とは常に表裏一体をなしている。特に神経障害のように、少数であっても犠牲者が出てしまうことを、今後いかにワクチンを改良しようとも避けて通ることができないのは、理論上または経験上からも明白である。・・
(1)弱毒化したワクチンが強毒化する点についての症例は述べなかったが、これはワクチン自体の問題か、それとも接種を受ける個体側の問題か、それは大きな学問的な問題として未解決。いずれ実現するであろう遺伝子組み換えワクチンによる安全性について、特に大きな問題になるであろう。遺伝子組み換えの基礎的な部分が完全にわかっていないのではないだろうか。
(2)ワクチン禍には第1から第4アレルギー型まであり、それぞれ相互の移行型もあり免疫学の領域から見ても未知の部分が数多く残っている。また、遅延型アレルギーの重大な問題が残っている。4原則目は、医学のうちの特に免疫学のうちで、未知の領域が数多く残っている。今後のワクチンの改良、強制接種の廃止、その他によって、将来の問題としてクローズアップされるのは、国賠がそのまま適用できなくなるというのは思い過ごしか。どのようにワクチンが改良され、被害者の数は減ってこようと、ワクチン禍がなくなってしまうことは考えられないとすれば、今後のワクチン禍訴訟は、どのような総論・原則論に基づき、国の責任論はどのようなものになるのかの問題を今からでも真剣にかんがえておかなければならない。・・奇しくも20年前の白木氏の予言通りの事態に直面しているのである。
9接種再開の圧力と厚労省の見解
被害者の治療、社会復帰を支援するためのさまざまな取り組みは依然不十分であるが、いま、接種再開の声が産婦人科学会を中心に主張され始めている。ワクチン接種をしないせいで、後になって日本が子宮頸がんで死亡する人の多い国になったら取り返しがつかないというようなことや、現状の接種中止により、10万個の子宮が失われる(摘出が必要)として、ワクチン接種の再開を主張している。
しかし、子宮頸がんによる患者数は全世界で45万人とされているものの、がん化するのは感染者の0.15%にすぎず、検診や治療水準など医療環境は国により全く異なる。
2017年12月22日の副反応検討部会で論点整理した「厚労省の見解」では、「HPVは広くまん延しているウイルスであるため、公衆衛生的観点からは、年間約10000人の子宮頸がん患者とそれによる約2700人の死亡者等をきたす重大な疾患となっている」としている。この日提出された厚労省のHPVワクチンの有効性に関する論拠は外国のものがほとんどであり、患者数と死亡数も年齢補正をしていないものである。罹患と感染、死亡には年齢的に大きなギャップがあり数字だけが独り歩きしているが、子宮頸がんは、がん死の中で特に多いがんではない。2013年データによれば、日本人女性は、609,752人が死亡し、がんで147,897人が死亡している。そのうちの2,656人が子宮頸がんで死亡したというのが適切な表現である。子宮頸がんの死亡は、がん全体のうちの2%であり、大腸がんや肺がんの方がはるかに多い。死亡者の多くは中高年(80才以上)であり、若い人が命を失うことは極めて稀であり、ワクチンの有効性が期待される年齢では、10万人に1人も死亡していない。
厚労省の資料には子宮頸がんの生涯累積死亡リスクは0.321%(312人に1人)とされているが、ワクチンの有効性を45%と評価して0.14%、65%としても0.20%である。生涯死亡リスクをもとに10万人あたり209人~144人が子宮頸がん死亡を回避できるとしているが、ワクチンの予防効果は、接種後長期間維持されるものとの前提であり、有効性や死亡回避は確立されたものではない。厚労省の説明も「死亡回避できる、と期待される」との表現にとどまっていることに厚労省の本音がみえる。7
10国の姿勢と今後の問題
国も、研究班の立ち上げ、協力医療機関整備、追跡調査の実施等に続き、副反応検討部会で内部委員の意見提出という形により救済の方向を示している。副反応検討部会は2013年6月14日に「積極的勧奨の中止」を決めたものの、その後は心因性のものなどとして副作用と認めず、2014年1月20日の開催以降は、子宮頸がんワクチンについては沈黙を守っていた。ようやく1年9か月ぶりの2015年9月17日に再開され、因果関係はあいまいにしたまま、一応の救済の姿勢を示した形となった。
この副反応検討部会の委員でかつ副反応そのものを審議する疾病・傷害認定審査会感染症・予防接種審査分科会の4名(分科会長五十嵐隆、稲松孝思、岡部信彦、多屋馨子(敬称略))が連名で、「ワクチン接種後に生じた症状に関する今後の救済に対する意見」を提出した。国の正式の部会名でなく「有志による救済の提案」である。国として因果関係は否定したいが、被害者の窮状にも一定の配慮をせざるを得ないので苦肉の策、いわば禁じ手である。
この提案をうけた形で、厚労省は、接種を受けた時期が、2013年4月の法律に基づく定期接種になる前か後かで救済範囲に差があるのを改善し、定期接種前(事業接種時)では入院相当の場合しか出なかった医療費と医療手当(月額34,000~36,000円)については、定期接種後と同じように通院でも出すことを決めた。さらに、因果関係が否定された場合でも、治療が必要な人には研究に協力してもらうとの名目で支援金を出すとした。
ここでの結論は、因果関係は認めなくてもある程度の救済は行うという中途半端なものだった。その内容は、(1)患者とのていねいな個別交渉で対応する、(2)入院以外にも医療費、医療手当を払う。(3)患者の治療のために患者からの研究への協力を得やすくする仕組みを検討する、(4)協力医療機関が全都道府県に整備されたが、患者に適切な治療ができるよう、更に診療の質の充実を図る、(5)患者の学習支援や教育現場との連携等、患者の生活を支えるための、相談体制を拡充する、というものだった。
2015年9月17日の副反応部会では、厚生労働省は副反応報告状況として、これまで副反応報告で集積した2584人を副反応疑い例として、発症日・転帰が確認できたものが1739人。うち未回復者を186人と発表した。厚労省は因果関係については認めないとしながら「症状とワクチンとの因果関係が認められない人にも、治療への支援金を出す方針を決めた」とされている。8
積極的勧奨中止時のうち、報告のあった、2014年4月1日から2015年8月30日までの定期接種期間内に接種を受けた人は、約79万人とされる。しかし、実際の被害の大半は基金事業としての事業接種時の2010年11月以降、とりわけ定期接種化への議論が紛糾していた2012年前後である。サーバリックスについては2009年12月から、ガーダシルについては2011年8月から厚労省はおおむね3か月ごとにアナフィラキシーショックを起こした人数を報告しているので、それから接種者数を拾うと、一番多く接種されたのが、2011(平成23年12月から2012年(平成24年)3月の合計149万人、一番少なかったのが2016年(平成28年)9月から2016年(平成28年)11月の合計2500人である。直近の2017年5月から8月では、サーバリックスが720人、ガーダシルが3000人で合計3720人と微増している。
全国子宮頸がん被害者連絡会に寄せられた500名以上の被害報告でも被害者が全国におよぶこと、とりわけ首都圏に多く、接種年齢も13歳をピークに12、14、15歳が大半を占める中、20代から45歳までの接種者もおり、初交以後の接種も含め、このワクチンの有効性についての情報提供もあまりされないままに接種が推進されていたことがわかる。国の積算根拠は不明であり依然として潜在的被害者の数は想定できない。
11HANSについても無視
2015年9月17日の副反応検討部会では、2014年1月20日の論点整理以降も副反応に多様性や個別性は説明できないし、ワクチンが引き金で起きたとしてもメカニズムは不明で解明されていない。新知見はなく大きく変える必要はないとし、定期接種を継続しつつ治癒した症例の知見を集積すべきとした。それを踏まえ、全体の症例研究の、より科学的評価の必要があり、回復例も多いことから回復例の知見を情報提供をしていくとされた。ある委員からは、現時点では、速やかな疫学調査等しても5年はかかるものなので、接種していない人との症例対照などする必要があるとの意見がでたため、症例対照調査をすることが主張された。
桃井委員長は「心身の反応という言葉が誤解されやすいとして、機能性身体症状と言い換えることを提案した。そして、当日の参考資料としてだされていた、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(横田俊平医師)の資料のHANSについては、「症候群という「病名」のように使われているが、医学用語ではないし新規の知見ともいえない」と切り捨てた。
その後の研究班は、痛みの治療の研究とワクチンを打っても打たなくても同様の症例があり得るとする結果を求める祖父江班の研究9へと軸足を移すことになる。
12救済の実態と救済体制
厚労省は2015年9月17日に発表した追跡調査で後遺症が明らかだと思われる186名のみについて、副反応審査会で認定の審査をして事態の収拾をはかっているのではないかとの疑問の声もあった。この調査自体がメーカーのMRがしていること、この186名の中に入っている人でも診断内容記録が間違っていたり、重い後遺症が出ているケースもあり、この絞込み自体に問題がある。
2015年9月17日から2017年9月30日までに、予防接種法上の救済(定期接種対象者)の申請者36人中21人が認定を受けた。PMDA法による事業接種では審査した436人中274人が認定された。
2015年11月2日には各都道府県の衛生部門(81自治体)・教育部門(69自治体)に相談窓口を設置し、関係機関と連絡をとり支援をつなげる取組を始めたとされている。ここでは、教育部局に設置する相談窓口は、教育に関する事項に対応することとし、とくに通学、学習、進級、・進学に関する相談等に対して、個々の事情に応じて所属学校に連絡をとる等により、指導・助言に努めること。とされている。2015年11月から2017年7月までの相談件数は1083件とされる。出席日数の調整や車いす移動の時間割調整などがされている。
厚労省は「今後もHPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援を継続的に実施する」と明言している。子宮頸がんワクチン副反応による症状は、各個人によって症状の出る時期、程度、持続時間、天候や月経周期によって変化し、時間的な経過で症状は重層化し、数年にわたり慢性的な経過をたどっている。これらの症状は、日常生活の活動に大きな影響を与え、学習が継続できない状況に至っている。子宮頸がんワクチンを接種した対象者は、12歳から16歳の女子生徒である。すでに成人を迎えた人も少なくない。大学生から新社会人となっている年代である。被害者は、いまなお体調不良に苦しみ就職もできず将来への不安のなかにいる。進学がかなわず留年や退学を余儀なくされた人も多い。大切な時期に取り返しのつかない教育の機会を奪われた子どもたちがどれほどいるのか、遡及調査をして具体的な公的な支援を行う必要がある。
厚労省がすべきは、基金事業接種時(PMDAが救済)か定期接種時(国の救済)かに関係なく、被害者の申請手続きを簡略化し、自治体窓口などでも副作用申請のための支援体制を作ることである。定期接種以外のPMDAでの審査も詳しく公表される必要がある。公表されることで、同じような症状に悩むより多くの全国の被害者が被害に気が付くことができるのである。
2015年12月からは通院にも医療費を助成するとして、入院レベルでないものも救済するとしているが、入院すらできずにさまざまな不調を訴えたり学校に通えなくなっている多くの子どもがいる。接種から数年以上たち、患者記録の保存もむずかしくなってきている。症状が改善している例もあるが、悪化している人も多く、症状によってはこうした救済の土俵にすら上がれない人も多くいる。何よりも申請書類の多さと記入の複雑さ、医師の意見欄に医師が記入したがらないことが救済の壁となっている事実に目を向けるべきである。
13審査体制への疑問
副反応審査分科会の長である五十嵐委員は合同開催(副反応検討部会)の長を兼任しているが、GSK、MSDから多額の寄付金等を受領しており、副反応検討部会でも議決権がないことが多い委員である。ワクチンの導入、問題点の検証、被害救済のための認定。これらの一連の行為は公明正大におこなわれなければならない。利益相反に甘い日本の制度は見直しが必要である。
本来であればこれだけの被害を出しているのであるから、再発防止の観点から、国は検証委員会を設置し、第三者機関として導入の経緯から再発防止の観点から、これまでの国の姿勢そのものを問うことがなければならない。被害実態を一番把握しているのは国のはずである。徹底的に被害者の絞り込みを行い、最低限の救済や雀の涙ほどの救済も惜しむ。とても福祉国家とは言えない。
14接種再開に向けた動き
2017年12月22日に開催された副反応検討部会では、接種被害をうけた車いすの女性や保護者が真剣に見守る中、事務局の説明と2,3の当たり障りのない意見が出たのみで、会議は予定の半分の時間で終了した。
当日の副反応検討部会には、重要な資料が提出されたが、当日の議論は当たり障りのないものだった。そのため、報道はほとんどされないか、されたものも的外れ。せっかく行われた被害弁護団の会見もほとんど報道されなかった。副反応検討部会ではHPVワクチンのリーフレットの改訂案等が示されたが。弁護団は改定案の問題点を主張している。改定案は、(1)記憶障害・学習障害等の症状が削除されており、多様な副反応症状の説明が不適切である。(2)接種から1ヶ月以上経過してから発症した症状は因果関係を疑う根拠に乏しいという誤った情報が追記された。(3)不適切な祖父江班調査の結果がそのまま引用されている。(4)有効性について不適切な推計による過大な「期待」が記載されている。
そもそもなぜ、この時期に、子宮頸がん予防ワクチンとしていたのを、HPVワクチン言い換えたり、これだけ見ても被害の深刻さがわかる73頁に及ぶこれまでの副反応被害報告の一覧を出したりしたのであろうか。「HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援について」の標題で論点をまとめているが、目新しいことは何一つない。参考資料として、諸外国のHPVワクチンの安全性についての文献の紹介や諸外国の公的機関及び国際期間が公表しているHPVワクチン擁護に関する報告書を出している。
今回出された資料の報告等では、疼痛以外のさまざまな症状が未解明のまま報告されており、副反応検討部会が被害者に真に寄り添った医師等の主張するHANSや、アジュバンド等による副作用の可能性を示す複数の国際的論文、持続感染を目的とする新たなこのワクチンの副反応発現についての新知見については全く触れられていない。反面、接種後に報告されている“多様な症状”との因果関係には否定的な表現素案を出している。また、接種勧奨中止の原因となった接種後の疼痛、しびれなどの慢性的な症状について、「機能性身体症状であると考えられています」と断言し、因果関係についても「『接種後1か月以上経過してから発症している人は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい』と専門家によって評価されています」とし、「HPVワクチン接種歴のない方においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を有する方が一定数存在したことが明らかとなっています」と、因果関係について否定的な表現を意識的に盛り込んでいる。仮にこの程度の資料と議論で再開への地ならしをしているとすれば、検討機関としての責任を放棄したものとしかうけとれない。厚労省は2013年12月25日に開催した、第6回副反応検討部会を皮切りに、接種再開の議論を水面下ですすめてきたように思える。今回の資料は総括として、国に都合の良い資料をまとめたものといえよう。
15接種再開は可能か?
いまや日本はワクチン大国。高齢者へのインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンも日常的に接種されている。帯状疱疹ワクチン(水ぼうそうワクチン)が導入されるのも時間の問題とされる中で、一見HPVワクチンの接種再開は容易なように見える。
2015年12月WHO(世界保健機関)のワクチン専門委員会(GACVS)は、日本の積極的勧奨の中止措置に対して、安全で効果的なワクチンの不使用による政策決定は有害、と批判した。また、2016年4月には「予防接種推進専門協議会」とそれに賛同する2団体(合計17団体)が、HPVワクチンの積極的な接種推奨を求める声明を出したとされている。2017年7月に再度GACVSが、HPVワクチンのSafety updateで、本ワクチンは極めて安全であるとの見解を重ねて示したことから、日本産科婦人科学会(藤井知行理事長)は、2017年8月に、「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)接種の積極的勧奨の早期再開を強く求める声明」を公表し、2017年12月9日付けで、同様の声明を再度だした。また、これまで被害者や被害者寄りの研究者にバッシングをおこなってきたジャーナリストに公共の利益のために科学や科学的根拠を広めることに貢献した人に贈られるとされる「ネイチャー」元編集長の功績を記念したジョン・マドックス賞が贈られたことから、接種再開に向けての弾みがつけられるかのような期待を口にする関係者もでてきている。
産婦人科学会をはじめとして積極的勧奨の再開を望む声は強く、米国からの圧力も背景に被害者へのバッシング勢力も後を絶たず、厚労省の弱体ぶりが社会の混乱に拍車をかけた格好となっている。事態の収拾を試みたと思われる官僚は交代し、導入時のほとんどの担当者や審議会の長も引退するなか、2016年の全国での集団訴訟提訴後各地で数回の口頭弁論期日が進行している。被害者への適切な治療や補償を求める声と接種の再開の声の板挟みともいえる中で開かれた副反応検討部会では、表立った再開にむけての議論は皆無であったが、そこに提出された資料の総括には注目すべき点が多い。
16被害の実態は氷山の一角、責任回避での再開は許されない
子宮頸がんワクチンは、拙速というより、むしろ関係業界や研究者も巻き込んだ周到な根回しで導入された。当初の目標通り、定期接種化までしたものの、被害者の声を無視できなくなった厚生労働省は事態への対処を迫られ、定期接種化わずか2か月半で「上手に積極的勧奨を中止」したと内部的には自画自賛しているといわれている。裏を返せば、下手な再開はできないということであろう。2013年6月、2か月半で積極的勧奨が中止されたときの経緯を振り返ってみよう。2013年6月14日に厚生労働省において開催された「第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」の議事録によれば、CRPS事例をどうみるか(「慢性疼痛症例については的確に情報が伝えられる段階に今はない」などの発言あり)についての議論の後、「このまま接種を継続するか、それとも積極的勧奨を一時差し控えて、その間、情報を整備するか」について賛否を採決し、3対2で後者とすることを決定し、同日直ちにその通知を全国に発出した。
2013年に取られたこの「差し控え」措置は、「接種部位以外の体の広い範囲で持続する疼痛の副反応症例等について十分に情報提供できない状況にある」(厚生労働省)というのが「理由」であった。
厚労省の本音は、いかに有効性を強調しても、現に激烈な副作用被害者がでており、今後も必ずでるであろうこのワクチンを、あえて再開などとてもできないというのが本音であろう。
その後の副反応検討部会は膨大な資料のもと、因果関係はみとめないままに、「被害者に寄り添う」との美名の裏で、むしろ因果関係を認めないための調査を積み重ねてきた。海外でいくら有効とされても、米国からの圧力があっても、到底同一条件での再開などできない状況である。接種率の激減、遠からずゼロとなる現状で国民が接種を希望するとは思えない。
被害の実態を一番知っている厚労省は外圧や医療界の顔色をうかがいつつ被害の拡大防止の舵とりをしてきたはずである。それでもなお、直近のとりまとめには再開へのひそかなもくろみが見て取れる。
2010年から、日本の少女を襲ったHPV被害事件は、現在の豊かで民主的な情報化社会と言われるなかで、公共医療政策の失敗により、いのちや健康、本人だけでなく家族を含めた人生の質も変えてしまうことをあらためて知らしめる結果となった。被害を認めたくない国が国民の声に押されて小手先の政策で乗り切ろうとするなかで、外圧やグローバルなメガファーマーの世界戦略のなかでは、被害者だけでなく被害者寄りの研究者や支援者までもバッシングを受ける事態となっている。それでも若い弁護士を中心とした被害弁護団やそれを支える会などにより、被害者を支援する強固な連係が一方でおきており、その情報をいかに届けるかに腐心している。
HPVワクチン被害がなぜ起き、関係者がどう対応してきたか、そして今後どう対応すべきか。被害者の声に今こそ国民全体が耳を傾けその背景を知り伝えることが次代を担う子どもたちへの責務であると考える。
(古賀 真子)
1 1973年に26家族が東京地裁の提訴し、5次提訴までおこない、1992年12月に61家族が控訴審判決で勝訴したことをうけ、国が控訴を断念。東京裁判の結果をうけ、名古屋高裁、高松高判でも和解、大阪高判と福岡高判でも勝訴したが、東京高判の勝訴をうけ最高裁で和解。4地域での原告救済の結果となった集団訴訟を4大裁判という。(詳細は予防接種被害の救済~国家賠償と損失補償(信山社)
2 麻疹(measles)、流行性耳下腺炎(mumps)、風疹(rubella)の頭文字を取ったワクチン。日本では、1989年から1993年まで実施されていた。しかしムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎発生率が高い事が問題となり中止となった。
3 予防接種には、法律に基づいて市区町村が主体となって実施する「定期接種」と、希望者が各自で受ける「任意接種」がある。接種費用は、定期接種は公費であるが(一部で自己負担あり)、任意接種は自己負担となる。定期接種には努力義務(国が勧奨する)があるA類型と、努力義務のないB類型(高齢者のインフルエンザと肺炎球菌)がある。定期の予防接種による健康被害が発生した場合には、国が救済給付を行う制度がある。任意予防接種によって健康被害が起こったときは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法による救済制度があるが、定期接種に比較して救済レベルが低い。HPVワクチンは定期接種ではなく、任意接種であるが、子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業として、2010年から2012年まで国と市町村(地方交付金を使用)が折半で費用負担して公的接種を行った。
4 詳細はそれでも受けますか?予防接種(2016年3月11日発行コンシューマネット・ジャパン発行)を参照
5 https://www.facebook.com/hpvv.yakugai.tsn/
6 ①ワクチン接種と予防接種事故とが、時間的、空間的に密接していること、②他に原因となるべきものが考えられないこと、③副反応とその後遺症(折れ曲がり)が原則として質量的に強烈であること、④事故発生のメカニズムが、実験・病理・臨床などの観点からみて、科学的・学問的に実証性や妥当性があること、の4つを組み合わせて、その蓋然性の高低の視点から、ワクチン禍の有無を考えることを提唱した。その後のルンバール事件でも因果関係判断基準としてほぼ同様の基準が採用された。
7 2017年12月22日、第32回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成29年度第10回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同開催参考資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189287.html
8 第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会平成27年度第4回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000097690.html
9 子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究.研究代表者:祖父江友孝(大阪大学大学院医学系研究科教授).全国疫学調査。全国調査(18302の診療科に対して行った調査)で、ワクチン非接種群では、既知の疾患では説明のできない患者がわずか15名しか見つからなかった。このことは、ワクチン接種者の重篤な症状が、前例のない深刻なものであり、ワクチン接種との因果関係を推定する重要な証拠となるものと考えられる。報告はワクチン接種歴あり群と接種歴なし群とに差があると、「バイアス」という言葉を持ち出し、WHO声明にもあるように「接種者と非接種者に有意差なし」の結論に導くための布石を随所で打っているが、かえって接種者の副作用被害を強く推認させる内容となっている。
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