人だけにある幸不幸草萌ゆる 木暮陶句郎
風鈴に風が砕けてをりにけり 同
榾火燃ゆオンザロックの氷にも 同
https://www.donga.com/jp/article/all/20200403/2028340/1/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%81%AE%E5%8A%9B%E8%AA%AC%E3%80%81%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%8C%E6%AD%A2%E3%81%BE%E3%82%8B%E3%81%A8%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%81%8C%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%81%AB
【新型コロナの力説、人間が止まると地球が健康に】
世界の新型コロナウイルスの感染者数が100万人に達し、人類の移動がストップした。国内をはじめ米国や欧州など各国が移動を制限し、「外出自粛」を実施しているためだ。学校が休校に入り工場が稼動を停止するなど日常生活が萎縮しているが、世界の空はいつよりもきれいになったという研究結果が出ている。
国際学術誌ネイチャーによると、最近「世界の煙突」であり、新型コロナウイルス感染症の発生源とされる中国の大気の質が改善されたという。多くの国家が強力な移動制限を命じる欧州地域の大気の質も良くなった。世界で新型コロナウイルスによって多くの人が命を失い、人間の活動が制約されているが、その結果、世界の空気がきれいになるという逆説的な現象が起こっているのだ。
米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が収集した衛星データを分析した結果、今年2月の1ヵ月間、中国で化石燃料の消費で発生する大気中の二酸化窒素が急激に減少したことが分かった。フィンランド・ヘルシンキにあるエネルギー・大気清浄研究センターが衛星データに基づいて分析した結果によると、中国の産業活動は新型コロナウイルスで最大4割減少した。今年2月の中国内の石炭消費は、この4年間で最低値を記録した。石油の消費も3分の1以上減った。この期間に中国の炭素排出量は25%以上減少したことが分かった。
NASAのゴダード宇宙飛行センターの大気科学者リュフェイ氏は、「中国では毎年旧正月の連休には工場を閉めて産業活動が減り、二酸化窒素の濃度も共に減少し、7~10日が過ぎると再び上昇するが、今年は違った」とし、「1月25日の旧正月後、中国の二酸化窒素の汚染度は前年の同期間に比べて10~30%ほど減った」と明らかにした。
中国の大気の質の改善は、韓国にも影響を及ぼしたと分析されている。昨年12月から今年3月までのPM2.5「非常に悪い(1立法メートル当たり51マイクログラム以上)」の日が2日だけだった。前年の同期間は18日。中国が新型コロナウイルスで工場の稼動を停止し、石炭をあまり使わなかった影響を無視することはできない。
ESAが運用する地球観測衛星「Sentinel-5P」のデータ分析の結果、欧州の大気の質の改善も確認された。この衛星には、大気中の粒子に日光が反射する時の波長と色を分析する分光装備がある。これを通じて、二酸化窒素、オゾン、ホルムアルデヒド、二酸化硫黄、メタン、一酸化炭素を探知することができる。
化石燃料の消費で発生する二酸化窒素の濃度は、風の方向や風速が変わる時に流動する。少なくとも10日ほどのデータを分析してこそ人間活動にともなう変化の影響がみえる。ESAは、「10日間のデータを集計して分析した結果、イタリア北部の二酸化窒素の濃度がかなり減少した。このような現象は、英国、スペイン、ドイツでも現れている」と明らかにした。
新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する場合、世界の経済成長率が最悪の水準になると懸念されている中、二酸化炭素の排出量も共に減少すると予測される。経済協力開発機構(OECD)は最近、最悪の場合、今年の世界の経済成長率が1.5%以下になるという見通しと炭素の排出量もこれにともなって1.2%減少するという分析を出した。
OECDは、「新型コロナウイルスで在宅勤務やオンライン会議などが広範囲に取り入れられ、現在の世界的な非常事態が続く場合、二酸化炭素の排出量が減少するだろう」とし、新型コロナウイルスがもたらした社会的、経済的活動の変化の様相を注意深く見る必要があると伝えた。
キム・ミンス記者 reborn@donga.com
http://ieei.or.jp/2020/03/opinion200318/ 【新型コロナウィルスと地球温暖化問題】より
今や世界中、右も左も新型コロナウィルス一色になっている。状況は日を追って変化しており、終息の見通しも立っていない。新型コロナウィルスの影響は人々の生命、健康にとどまらない。新型コロナウィルスへの対応措置により、世界経済が大きく減速する可能性が現実化している。外出禁止令や工場の操業停止は経済活動の事実上の停止を意味する。3月9-13日で世界の株式時価総額が10兆ドル失われたといわれ、個人消費を含む実体経済への悪影響へのマイナス影響も懸念される。
本サイトの中心課題である地球温暖化問題への影響はどうなるか?新型コロナウィルスが地球温暖化及びその裏腹の関係にある世界のエネルギー情勢に与える影響は問題の深刻化の度合い、終息時期等に大きく左右されるため、現時点でかくたることは言えない。
しかし短期的にはその発生源である中国の経済停滞、更には感染者の世界的広がりによる世界経済の停滞によってCO2排出量が前年比減になることが予想される。例えば中国の場合、2月のCO2排出量は前月比25%減になったと言われている注1) 。中国から世界に波及した経済停滞はエネルギー需要の低下をもたらす。とりわけ外出禁止令や国境閉鎖は国内外の交通需要を大きく減退させ、運輸燃料、航空燃料の消費減をもたらす。これらはいずれもCO2排出を押し下げることになる。この状況が続けば、2008-9年のリーマンショック以来の世界のCO2排出減になるだろう。
皮肉なことであるが、これは温室効果ガス削減に最も効果があるのは経済停滞であるということの証明でもある。もとよりこれは政府の長期戦略にいうところの「環境と成長の好循環」では全くない。「新型コロナウィルスは経済の縮小、自給自足化、移動の減少等、環境活動家が望むものを全てもたらした。彼らはさぞ満足なことだろう」といった皮肉な見方もある注2) が、それはフェアな見方ではないだろう。
新型コロナウィルスが短期的にCO2排出減につながるとしても、国際的な温暖化防止努力にとっては逆風であるという見方は強い注3) 。
第一に各種の国際会議への影響である注4) 。2020年はパリ協定実施の初年にあたり、COP26議長国の英国は「野心COP」を掲げ、プレCOP主催国のイタリアと共に各国に対してNDCの引き上げを強く働きかける算段を立てていた。しかし新型コロナウィルスにより国際会議が軒並みキャンセルとなっており、各国間の移動そのものも麻痺状態になりつつある。これは今年末に向けての国際的な世論形成にとって大きな足かせとなる。例えば6月にドイツ・ボンで予定されている補助機関会合が予定通り開催されるのか全く予断を許さない。9月にライプチヒで予定されているEU・中国サミットはEUが中国に対してNDC引き上げを働きかける重要な機会だと見込まれていたが、現下の情勢はそれに向けた準備を大きく阻害している。プレCOPの主催国となるイタリアも足元の状況を考えれば国際会議をホストするどころではない。11月のCOP26への影響は未知数である。
第二に新型コロナウィルス問題の深刻化により、政府、国民の温暖化問題への関心が低下することである注5) 。環境関係者はグレタ・トウーンベリの出現により、昨年以降、世界的に盛り上がった温暖化防止へのモメンタムが新型コロナウィルスによって大きく減退することを懸念している。新型コロナウィルスによる経済停滞が深刻化すれば、政府・国民の関心は国民生活の維持、景気回復に集中するのは当然のことであり、長期の問題である温暖化防止については「とりあえず横においておく」ことになりかねない。
第三に新型コロナウィルスによる経済危機からの回復過程でCO2のリバウンドが生ずる可能性が高いことである。リーマンショックで一時的に減少した世界のCO2排出量が再び増加に転じたことは記憶に新しい。衛星データによると中国各地でNOx濃度が上昇傾向にあり、これは中国で経済活動が再開している兆しであるとの報道もある注6) 。2020年のCO2排出量が前年比減としても、新型コロナウィルスショックから立ち直れば、経済と共にCO2排出量もリバウンドすると考えるのが自然だろう。
Copernicus/Windy.Com via Bloomberg
第四に原油価格低下の影響である。世界経済の停滞とサウジ・ロシアの減産合意失敗によって原油価格は一時30ドル/バレル近くまで下落した注7) 。トランプ大統領がSPR積み上げを指示したことにより、やや持ち直しているが、需給両面からの価格引き下げ圧力はクリーンエネルギー自動車の購買意欲を低下させ、再生可能エネルギーの競争力を相対的に低下させることになるだろう。化石燃料価格の低下は温暖化防止という観点からは逆風となる。
環境関係者の中には、新型コロナウィルス禍によってテレワークやテレビ会議等が新たなビジネスプラクティスとして定着すれば、低エネルギー消費パターンへの変化のきっかけになるのではないか、景気回復策としてグリーンニューディール的なクリーンエネルギー分野への資金投入を行い、温暖化ガスのリバウンドを防ぐべき、等の見方もある。新型コロナウィルスのピンチをチャンスに変えるべきだという発想だ。しかし各国は差し迫った新型コロナウィルスの脅威の前に温暖化問題に顧慮する余裕を失っている側面の方が強いのではないか。
もともと普通の人々は温暖化防止よりも教育、ヘルスケア、雇用機会を重視する傾向が強い。2013年に国連が実施したMy World では1位が教育、2位がヘルスケア、3位が雇用で、温暖化防止は最下位だった注8) 。
2020年時点で進行中の最新のサーベイ結果注9) を見るとパリ協定合意のモメンタムもあり、気候変動の順位は上がっているが、ヘルスケア、雇用、教育のトップ3は変わっていない。コロナ禍はまさしくヘルスケアと雇用と両方に関わる問題であり、政府、国民の関心が急傾斜することも驚くに当たらない。安倍総理が新型コロナウィルスの影響で生活が困窮している世帯の電力料金支払い猶予に言及した注10) ように、経済停滞による可処分所得の低下は、温暖化対策によるエネルギー価格の上昇に対する政治的受容性を低下させることになるだろう。
より巨視的に考えると、新型コロナウィルス問題は人の移動の自由を基礎とするグローバリズムに冷や水を浴びせることとなり、国境管理、ひいては国民国家の重要性を再認識させ、一国主義の台頭を後押しする可能性がある。温暖化対策を最優先課題にかかげ、グローバリズムとリベラルな価値観でトランプ政権に対峙してきたEU諸国が相次いで国境閉鎖を余儀なくされているのは皮肉な光景である。温暖化問題はグローバリズム、リベラルな価値観と強い親和性を有するものであり、新型コロナウィルスによってグローバリズムが後退することは温暖化問題の追求にも悪影響を与える恐れが強い。
色々考えてみると新型コロナウィルス問題は一時的に温室効果ガス削減をもたらすとしても、温暖化アジェンダの追求という点では悪影響の方がはるかに大きいように思える。とにもかくにもまずは目前の新型コロナウィルス問題の克服とダメージからの回復に注力するしかあるまい。
注1)
https://www.scientificamerican.com/article/how-the-coronavirus-pandemic-is-affecting-co2-emissions/
注2)
https://www.thegwpf.com/is-this-what-a-green-world-would-look-like/
注3)
https://time.com/5795150/coronavirus-climate-change/
注4)
https://www.climatechangenews.com/2020/03/10/coronavirus-delays-global-efforts-climate-biodiversity-action/
注5)
https://www.technologyreview.com/s/615338/coronavirus-emissions-climate-change/
注6)
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-03/satellite-pollution-data-shows-china-is-getting-back-to-work
注7)
https://www.cnbc.com/2020/03/08/oil-plummets-30percent-as-opec-deal-failure-sparks-price-war-fears.html
注8)
http://data.myworld2015.org/
注9)
https://datastudio.google.com/reporting/14nxNJIeenggWkXv5PzHOsPNrclibxuHH/page/rnaR
注10)
https://www.sankei.com/life/news/200316/lif2003160047-n1.html
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