https://www.bbc.com/japanese/51939641【【解説】 新型コロナウイルス、表面でどれくらい生きられる?】2020年03月18日 リチャード・グレイ
新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)は、ウイルスに汚染されたものの表面を触ることでうつることが分かっている。しかし、ウイルスが人間の体外でどれくらい生きられるのかは、やっと明らかになってきたばかりだ。
COVID-19が流行する中、ものの表面に触ることへの恐怖も広がっている。ドアをひじで開けようとしたり、電車内で手すりにつかまらないようにしたり、オフィスで自分の机を毎朝拭いたり……。こうした光景が世界中の公共スペースで当たり前のものになった。
新型ウイルスの流行が特に深刻な地域では、防護服に身を包んだ作業員が広場や公園、街の通りを消毒している。オフィスや病院、店舗、レストランなどでも清掃規定が厳しくなった。一部の地域では、ボランティアが夜ごと集まり、街の自動預け払い機(ATM)のキーパッドを消毒して回っている。
インフルエンザなど呼吸器疾患の原因になる他のウイルスと同様、COVID-19のウイルスも患者のせきで飛び散る飛まつから感染する。1度のせきで最大3000個の飛まつが飛ぶという。この飛まつは他の人や服、周囲のものの表面などに落ちるほか、空気中にもとどまる。また、ふん便にも長くとどまることが確認されているため、トイレの後に徹底的に手を洗わない人は、その後に触るものすべてを汚染する可能性がある。
ただし、アメリカ疾病対策センター(CDC)は、ウイルスの付着表面に触れた後に自分の顔を触っても、それは「ウイルス拡散の主原因ではないようだ」と言う。これは留意に値する。それでもCDCや世界保健機関(WHO)といった保健当局は、手を洗うこと、よく触るものの表面を毎日清掃し、消毒することがCOVID-19の感染拡大を防ぐ最大の手段だと強調している。つまり、汚染表面からの感染が具体的にどれくらいあるのかは不明ながら、専門家は用心を呼びかけているのだ。
SARS-CoV-2(COVID-19を引き起こしている新型ウイルスの正式名称)が人間の体外でどれくらい生きられるのか。これも、まだ明らかになっていない。研究によると、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)といった他のコロナウイルスは、正しく消毒しないと、金属やガラス、プラスチックの上で最長9日間生きられる。一部のウイルスは、低温状態で最長28日間生きられるという。
コロナウイルスは様々な場所で生存できる。この性質が新型ウイルスの拡散にどう影響するのか、研究者は少しずつ理解し始めたところだ。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)のウイルス学者、ニルチュ・ファン・ドゥーラマーレン氏と、モンタナ州ハミルトンにあるロッキー・マウンテン研究所の研究チームは、SARS-CoV-2が様々な物質の表面でどれくらい生存できるのかを調べた。医学雑誌「New England Journal of Medicine」に掲載された研究結果によると、せきの飛まつで空中拡散した新型ウイルスは、最長で3時間生存できる。また、1~5マイクロメートル(人間の髪の毛の幅の30分の1)ほどの細かい飛まつは、空気中に数時間とどまることもあるという。
つまり、フィルターのない空調設備で拡散される新型ウイルスは、最長で数時間しか生きられない。また、空気中にただよう「エアロゾル」状態のときに気流が動くと、飛まつは何らかの表面に素早く付着しがちだ。
しかしNIHの研究では、段ボールに付着したSARS-CoV-2は最大24時間、プラスチックやステンレスの表面では2~3日間生存することも明らかになった。
この調査から、新型ウイルスがドアノブやプラスチックでコーティングされたデスクなど、硬い表面でより長く生存することがうかがえる。一方この研究では、銅の表面では約4時間で死滅することが分かった。
しかし、もっと手早い手段がある。研究によると、62~71%のアルコールや過酸化水素0.5%が含まれる漂白剤、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムが含まれる家庭用漂白剤で表面を消毒すれば、コロナウイルスは1分以内に不活性化する。他のコロナウイルスは高温多湿の環境で早く死滅するが、SARS系のコロナウイルスは56度以上の環境で、15分ごとに1万個のウイルスが死ぬ程度だという。
感染者のせきの飛まつにどれくらいのウイルスが含まれているか、データはない。しかしインフルエンザの研究によると、小さな飛まつでも数万個のウイルスを含む可能性があるという。ただし、この値はウイルスによって様々で、ウイルスが呼吸器のどこに存在しているのか、あるいは感染者の病状によっても異なるという。
服など消毒しにくいものの表面で、新型ウイルスがいつまで生存するかは分かっていない。ロッキー・マウンテン研究所の研究者で、NIHの研究を主導した1人のヴィンセント・ムンスター氏によると、段ボールなど吸収性の高い天然繊維の上では、プラスチックや金属の上よりも、ウイルスは素早く乾くようだ。
「通気性・通水性の高い物質の上では、ウイルスは急速に乾いて繊維にこびりつく可能性がある」とムンスター氏は説明した。温度や湿度の変化も生存期間に関係する可能性があり、エアロゾル状態でウイルスが不安定なのは、熱や湿気にさらされやすいからかもしれない。
「我々は現在、温度や湿度の影響をさらに詳しく調べるため、追加実験を行っている」
ムンスター氏はその上で、ウイルスが長生きな分、手洗いと表面の消毒はますます重要になる指摘する。
「このウイルスはさまざまな経路で、広まっていく可能性がある」
(英語記事 Covid-19: How long does the coronavirus last on surfaces?)
http://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/infection_route/ 【感染の方法】 より
ウイルスや細菌など病原体の感染経路にどのようなものがあるかお示ししたうえで、今回の新型コロナウイルスで明らかにされてきた感染経路とその対処法をおつたえします。
<感染経路の種類>
1)空気感染
飛沫核感染;感染者から排泄された飛沫核を直接吸い込むことで感染します。飛沫核は飛沫から水分が蒸発することでも形成されます。
塵埃(じんあい)感染:病原体に汚染された土壌や床から舞い上がった埃(ほこり)を吸い込むことで感染します。
2)飛沫感染
咳などで出た飛沫を吸い込んだり、飛沫が鼻や目などの粘膜に付着することで感染します。
3)接触感染:患者と接触したり、病原体のついたドアノブ・食べ物などを介して感染します。
経口感染:病原体で汚染された食べ物や水、病原体で汚染された手で食事をすることなどで感染します。
粘膜感染:患者の血液や体液などが目や鼻の粘膜に付着することで感染します。
性行為感染:性行為により病原体が伝播します。
4)母子感染:病原体が胎盤や母乳を通じて、あるいは出産時に産道から感染します。
5)経皮感染:蚊にさされたり、動物にかまれることで感染します。患者の血液のついた針を誤って医療従事者が自分の手などにさしてしまう、いわゆる針刺し事故もこれに分類されます。
<コラム> エアロゾル感染とは? 飛沫感染と飛沫核感染の違い
エアロゾル感染という言葉を耳にすることも多いかと思います。そもそもエアロゾルとは、気体中に液体ないしは固体の微粒子が広がった状態を指していて、ほこりや花粉、霧などが含まれます。微粒子の大きさは数nmから100μm程度まで様々です。
エアロゾル感染というのは、このような空気中をただよう微粒子内に病原体が含まれていて、この微粒子を介して感染することを指しており、感染経路として「飛沫感染」と「飛沫核感染」を包含している用語です。この2つの感染経路は、名前は似ていますが、対策方法が下記の表の様に大きく異なります。
なお、「エアロゾル感染」という言葉は文脈により飛沫感染のことしか指していない場合や飛沫核感染のことを指しているもあり、解釈には注意が必要です。
飛沫感染 飛沫核感染
サイズ 直径5μm以上 直径4μm以下
特徴 重いのですぐ落ちる
飛距離1-2m程度 軽いので長時間浮遊する
発生源 咳、くしゃみ、会話など 飛沫から水分が蒸発
痰の吸引などの医療処置
主な病原体 インフルエンザ、RSウイルス、百日咳など 麻疹、水痘、結核など
病院での対応
標準予防策*に追加
標準予防策:手洗い、体液に触れる時は手袋、体液が飛散するときはマスク・ガウン・ゴーグル(またはフェイスシールド) サージカルマスク
(医療従事者)
できれば個室管理
無理ならカーテン隔離
N95マスク(医療従事者)
(毎回フィットチェック(ユーザーシールチェック)を行う)
陰圧個室管理
病室から出る際には患者にサージカルマスク
必要に応じて接触感染対策(室内に入る度にマスク・ガウン)もあわせて行う
防護具の着脱のトレーニングを行う
新型コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染が主であり、特殊な環境では飛沫核感染があると考えられています。これらは、それぞれいわゆる「3密」の密集・密接・密閉状態を避けることで感染機会をへらすことができます。(Cf.ポスター「3つの密を避けましょう」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000614802.pdf)
3密が重なると、クラスターの発生リスクとなるといわれていましたが、感染が広がっている状態を考えると、3密の1つでもリスクと考えて、極力避けることが望まれます。
まず、飛沫感染を防ぐため2m以上の距離をあける、「密集」を避けることが大切です。また、くしゃみでは時速300kmで飛沫が飛散し、3m以上に届くこともあるとされています。咳エチケットと呼ばれるように、咳・くしゃみの際にマスク・ハンカチ・袖などで口を覆うことで、初速を抑えてできるだけ飛散距離を短くすることが感染対策に重要です。今回の新型コロナウイルス感染症では症状の強さと感染力の強さが一致しないといわれており、また発熱していなくても感染力があるという報告もあります。そのため、流行期には皆が「自分もコロナウイルスを無症状病原体保有者かもしれない」と思ってマスクをして周囲に自分からの飛沫を広めないことが重要です。
接触感染については、文字通り接触を避ける、接触したら水で洗ったり、除菌することが必要です。現在眼・鼻・口の粘膜からの感染が報告されていますが、健常な皮膚からの感染はないと考えられています。その一方で物に付着したウイルスは4-72時間程度感染力があると考えられています。そのため、ウイルスを自分の体(特に手)や物に付着させないことと、付着しているかもしれない状態で首より上を触らないことが重要です。
さいごに飛沫核感染です。これは空気中をウイルスを含む微粒子がただようことで起きるため、換気が重要です。飛沫核感染は医療処置など特殊な状況で起こると考えられていますが、新型コロナウイルスは飛沫から水分が蒸発した飛沫核内であっても3時間程度は感染性を有するとの報告もあり、密閉空間を避け換気をしたほうがよいと考えられています。病院で用いられているN95マスクは、飛沫核感染の防止に有効ですが、漏れがないように毎回フィットチェック(ユーザーシールチェック)が必要で、逆に漏れがないようにつけると息苦しさを感じるため、感染対策としては医療機関以外で使うことはありません。医療機関においてもN95マスクは現在不足気味で、再利用を行ったり、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)ではフェイスシールド+サージカルマスクでも許容するとの指針をだしている状態です(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/COVID-19_PPE_illustrations-p.pdf 2020.4.23.)。工事現場などで使う防塵マスクとして同様の規格のマスクが使われることがありますが、市販されていても購入しないようにしましょう。
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