https://www.kampo-sodan.com/column/column-3873 【漢方で見る感染症対策vol 10 銀翹散と藿香正気散】2020.05.211696view
新型コロナウイルスをはじめとした感染症についてお伝えする「漢方で見る感染症対策」シリーズでは、感染症で使われる漢方薬をご紹介しています。前回はかぜや感染症の初期で、寒気や発熱、特に咳を伴う場合に使われる「麻黄湯(まおうとう)」と「麻杏甘石湯を(まきょうかんせきとう)」を紹介しました。第10回目となる今回は、薬日本堂漢方スクールの原口講師がのどの腫れや痛みに使う「銀翹散(ぎんぎょうさん)」と夏かぜに使われることの多い「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」を紹介します。
温病学から生まれた銀翹散(ぎんぎょうさん)
「銀翹散」は、温病学の名著である『温病条辨(うんびょうじょうべん)』に登場します。元々は「温病の初期、熱の邪気が体表付近にあって、まだ深く進行していない時に用いる」とあり、風熱の邪気が体内に侵入してすぐにあらわれる症状一般に用いられる処方です。
生薬のはたらき
・金銀花(きんぎんか)、連翹(れんぎょう):熱の邪気を発散させて熱を冷まし、強い香り(芳香)で体内に滞っている「湿(身体に不要な水分)」を出すはたらきがあります。また、風熱がパワーアップすると「熱毒」になるのでその毒を取り除きます。
・薄荷(はっか)、牛蒡子(ごぼうし):いずれも「涼」のはたらきがあり、熱を冷ますと同時に頭や目をすっきりさせ、咽の腫れを取り除きます。
・荊芥(けいがい)穂、淡豆鼓(たんとうち):この二つは少しばかり温めるはたらきがあります。他の生薬が冷やすはたらきがあるため、冷えすぎないように少し温めて、汗をかかせ邪気を外に出しやすくします。
・葦根(ろこん)、竹葉(ちくよう):熱を冷まし身体の潤い成分を増やすはたらきがあります。
・桔梗(ききょう):肺の気を巡らせ、咳を止め、咽喉の腫れを改善させます。
・甘草(かんぞう):諸薬を調和させ、胃を保護します。また、桔梗と一緒に用いると咳を止めるはたらきがあります。
効果
体表付近の熱邪を表に出させ、熱を冷まして熱毒を取り去ります。
適応
発熱、軽い悪寒、汗が出ない或いは出ても少なめ、頭痛、口渇、咳、のどの痛み、舌の先端部が赤く苔は薄く白い或は薄く黄色い
全体的に冷やして熱を冷ます生薬が多い中に、寒熱のバランスをとるために温める生薬を加えています。日本では、かぜのひき始めによく使われます。かぜのひき初めといえば寒気がありぞくぞくする時に使う「葛根湯」が有名ですが、「銀翹散」は寒気が比較的軽く、のどが痛み、水分を欲するような場合に用いられます。
見過ごされがちな「湿」~藿香正気散(かっこうしょうきさん)
藿香正気散は宋の時代の『太平惠民和剤局方(たいへいけいみんわざいきょくほう)』に登場する処方で、「藿香(かっこう)」という生薬を中心に構成されています。夏の多湿な時期に冷房にあたり過ぎて身体が冷えた後のかぜや、お腹の不調があるかぜなど、外から風寒の邪気を受け、体内に「湿」が溜まることによってあらわれる症状に用いられます。
生薬のはたらき
・藿香:温めるはたらきがあり、風寒の邪気を取り除きます。また芳香の性質なので、体内の「湿」を取り除くはたらきもあります。胃に「湿」が溜まると吐き気や嘔吐の症状が出るので、それを止めるはたらきがあります。
・半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ):気を巡らせ、「湿」を除きます。また胃のはたらきを整えて、吐き気や嘔吐を止めます。
・白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう):消化吸収を担当する「脾」を元気にして滞っている湿を動かすはたらきがあり、お腹の不調を改善する漢方薬に含まれていることが多いペアです。
・大腹皮(だいふくひ)、厚朴(こうぼく):気を巡らせて「湿」の滞りを解消します。
・紫蘇(しそ)、白芷(びゃくし):温めて風寒の邪気を発散させます。また、紫蘇は気を巡らせて吐き気を止め、白芷は「湿」を除くはたらきがあります。
・桔梗:肺の気を巡らせ、解表も化湿もします。
・甘草:諸薬を調和させます。以上の生薬に生姜と大棗を加えて煎じます。
効果
外から体内に侵入した風寒の邪気を発散させ、体内に溜まった湿を取り除きます。
適応
悪寒発熱、頭痛、みぞおちの辺りの痛み、胸部が詰まった感じ、吐き気、嘔吐、下痢、舌の苔が白くてべったりとついている
今回の新型コロナウィルス感染症の症状の中に咳や発熱の他、下痢や食欲不振のような胃腸の不調の他に全身の倦怠感などが挙げられていました。これらを湿による症状とみれば、治療薬として『傷寒論』の中の処方を組み合わせて作られた「清肺排毒湯」の中に藿香が含まれているのは、理にかなっていると言えるでしょう。
https://jjclinic.jp/51400766-2/ 【温病(うんびょう)の勉強を始めました(1)】
風邪の診療をしていると、どうしても困るのが扁桃腺炎です。
扁桃炎は風邪の一部分という認識の方がとても多いと思いますが、あの喉が痛くなる炎症は、明らかに風邪とは異なります。
何が異なるのかよくわからずに居りましたが、中医学的に考えると、風邪は傷寒論で論じられ、扁桃炎は温病論で論じられるものだと分かってきました。
中医学の温病論についてはまだ勉強中ですが、扁桃炎やインフルエンザのように熱が一気にどっと出る病気に対して、対応が色々考えられているようです。
温病と思われるものは、おたふくかぜ、麻疹、脳炎、髄膜炎、肺炎、敗血症、胆嚢炎、膀胱炎、インフルエンザ、扁桃炎など、急に高熱がでる病気です。
温病は温熱病毒によるもので化火します。これが体内の水に影響を与え、特に陰が失われ、乾燥による症状が出やすくなるとのことです。
通常の風邪でも寒気が出るものと出ないものがありますが、弱い温病が存在するなら、寒気の出ない風邪とは区別がつかない感じがします。
この話題はとてもニッチな内容で、皆さんにとって面白いのかどうか不安がありますが、私にとっては長年のテーマなので、来週以後も丁寧に扱っていこうと思っています。
http://www.nishimotoclinic.jp/clinicletter/images/201604.pdf#search='%E6%B8%A9%E7%97%85%EF%BC%88%E3%81%86%E3%82%93%E3%81%B3%E3%82%87%E3%81%86%EF%BC%89' 【かぜと漢方薬】
しょう寒論かんろんと温うん病 学びょうがく
「漢方」とはその名のとおり「漢の国(中国)から伝わった医学」という意味であり、そのルーツは、中国の伝統医学です。中国伝統医学における最も古い書物としては、「⻩帝内 こうていだい経素け い そ問もん(紀元前 3 世紀頃)」「神しん農本のうほん草ぞう経きょう(1世紀頃)」「 傷しょう寒かん雑病論 ざつびょうろん(3 世紀頃)」があり、「⻩帝内経」は中国伝統医学の基礎理論を、「本草経」は当時の薬物学を、「傷寒論」は治療学を集⼤成した書物として知られています。
なかでも、「傷寒雑病論」は⻄暦 200 年代に中国の南陽(現在の河南省の⼀部)に生まれた張 仲 景 ちょうちゅうけいによって著されたといわれるもので、感冒様の症状を呈する初期から、病情が悪化したり誤った治療によって死に⾄るまでの、さまざまな過程での治療法が系統的に⽰されています。張仲景はその「序文」の中で、このように述べています。
「私の⼀族はいままで人数が多く、昔は二百余人を数えた。ところが建安元年(紀元 196 年)以来、10 年⾜らずの間に 3 分の 2 が死んでしまった。
そのうち、傷寒病で死んだものが 10 分の 7 を占めた。(中略)疾病で突然に、或いは若くして死んでいった彼らを救ってやれなかったことに⼼が痛む。このようなわけで、私は書物を書き残す決⼼をした。(後略)」
張仲景の⼀族の半数以上が死に⾄った「傷寒病」とは、おそらく、高病原性鳥インフルエンザや SARS のような、パンデミックウイルスによる感染症であったかと思われます。
「傷寒病」の初期症状は、「寒」と「風」の特徴を持っており、具体的には、「悪寒」「節々が痛む」「汗が出ない」などの症状が現れます。これらの症状に対しては、「桂けい枝し湯とう」「麻ま ⻩湯おうとう」「葛かっ根こん湯とう」などのお薬を使います。これらは皆さん方も⼀度は聞かれたことがあると思いますが、現代でも風邪やインフルエンザに用いられる有名な処方ですね。2000 年近くも昔の知恵が今でも臨床に生かされているのです。
⼀方、同じ風邪でも、寒気がほとんどなく、咽喉痛や頭痛、咳といった症状から始まるものも多いですね。症状が重い場合は高熱が何日も続いたり、発汗が過剰で脱⽔になったり、出⾎傾向が表れたり、意識が混濁したりすることもあります。今の病名で言うと、日本脳炎やコレラ、あるいは、ペストやエボラ出⾎熱のようなものもその類かも知れません。これらの病気に関しては、「傷寒論」の中ではあまり詳しく書かれてはいないのですが、中国の明みん代 1408 年〜1643 年の 235 年間に 19 回、清しん代初期 1644 年〜1860 年までの 214 年間に、80 回を超えるパンデミックがあったということが知られています。このような病気を分析し、治療法をつくり上げたのが、葉天⼠ よ う て ん し(1667-1746)や呉ご 鞠通きくつ(1758-1836)といった医師たちで、これらの病気は、傷寒の「寒」に対して、「温」の性質を持つことから「温 病 うんびょう」と名づけられ、その研究は「温病学 うんびょうがく」と呼ばれています。温病の性質を持つ風邪の初期症状に用いる薬には「銀翹散 ぎんぎょうさん」は「桑そう杏きょう湯とう」などがあります。温病学が発展した清の時代は、日本が鎖国政策をとっていたり明治以降は⻄洋文明の模倣に⼀生懸命で、これらの処方が日本で広まるチャンスがなかったことから、我々が日常診療で医療保険を使って処方するお薬にはリストアップされていないのですが、「銀 翹 ぎんぎょう解毒散 げ ど く さ ん」や「天津てんしん感冒片 かんぼうへん」などの商品名で薬局で販売されているものもありますので、「寒気がなく」「節々も痛まず」「咽喉の痛み」や「頭痛」があるような風邪の予備薬として、薬局でお求めになっておくのもよいかもしれません。
http://www.sm-sun.com/family/yougokaisetu/a/unnbyou.htm 【温病 中医用語解説 ウンビョウ・オンビョウ】より
温邪を感受して引き起こされる種々の急性熱病の総称。
古くは、熱病をすべて温病と呼んだ。後世には、熱の軽いものを温、重いものを熱としたが、実質は同じであるため、あわせて温熱病というようになった。
発病が比較的急性で、初期には熱が偏盛であることが多く、化燥傷陰しやすい。
温邪は季節によって異なるので、温病には種類が多い。風温・春温・湿温・暑温・冬温・温毒などがよくみられる。
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