https://www.fmmc.or.jp/Portals/0/resources/ann/pdf/corona/corona_CN_20200508.pdf#search='%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%81%A8%E8%82%BA%E7%82%8E%E3%81%AB%E3%80%815G'
【中国の 5G による新型コロナウイルス感染症への対策】
ICT リサーチ&コンサルティング部 裘 春暉
1 はじめに
中国では、2019 年は「5G 元年」と位置付けられている。6 月の経営免許付与、11 月の
商用サービス開始、年末までの 13 万基超の基地局構築など、5G 関連の出来事が多く報道
されてきた。5G の法人と個人向けサービスの割合は 8 対 2 と予想され、各業界のニーズに
合わせたサービスの開発が必要とされた。そうしたなか、想定外であったが、直近猛威を振
るう新型コロナウイルス感染症によるリモートの作業環境に対するニーズが高まり、5G の
高速大容量と超低遅延の実用性を試す場となった。
2020 年初めから始まった新型コロナウイルス感染症の蔓延対策において、5G と人工知
能(AI)や、ビッグデータ、クラウド及び超高精細動画技術との融合、無人ロボットのリモ
ート操縦といった利活用が活発になったことが、中国情報通信研究院(CAICT)がまとめ
た報告書で明らかになった1。全国にある 31 の省・直轄市・自治区のうち、22 の省・直轄
市・自治区において 5G を用いた何らかの形での新型コロナウイルス感染症対策が実施さ
れ、わずか 2 か月の間、その件数は約 100 件に及んだ。以下に代表的な応用事例を紹介す
る。
2 応用事例その 1:新型コロナウイルス感染症患者に対する遠隔超音波診療
5G の高速大容量・超低遅延の特徴を活かした応用例の一つは、今年の 2 月 18 日に実施
された新型コロナウイルス感染症患者に対する遠隔超音波診療であった。浙江省にある人
民医院遠隔超音波医学センターの専門医師が中国電信の 5G 技術を利用し、700 キロメート
ル離れた黄 陂ホワンベイ体育館 方ファン舵ドォウ医院の超音波ロボットアームを操作し超音波検査を実施した。
これは、新型コロナウイルス感染症が発生後、初となる 5G 遠隔診療技術を用いた新型コロ
ナウイルス感染症患者への救命治療であった。中国電信はこの遠隔治療のために安定した
高速 5G ネットワークによる通信を提供した。
超音波ロボットテクノロジーは、5G による高速大容量・超低遅延の通信環境を前提とし
ている。5G ネットワーク環境下で、ロボットが実際にアームを動かし、それに同期して検
査画像も表示させることで専門医療スタッフが遠隔診断を実施し、かつ現場の医療チーム
に対し遠隔診療の指導を行うことができるようになった。しかも、新型コロナウイルス感染
症患者の治療に一刻も争う必要のあるなか、中国電信は 24 時間という短期間で該当医院区
域の 5G の敷設工事を完成させたと伝えられている。
1 工業・情報化部所管の研究機関である CAICT は、2020 年 3 月に、5G アプリケーション産
業連盟と共同で「COVID-19 対策期間における 5G 応用研究報告書」を発行した。また、5G
の利活用の事例が検索できる専用サイト(http://www.appstore5g.cn)も構築している。
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3 応用事例その 2:5G ロボット消毒車
超低遅延機能を応用した 5G 遠隔操作のもう一つの具体例では、「5G ロボット消毒車」が
話題を呼んだ。ロボットが人の代わりに消毒を実施したことで、実効性だけではなく安全性
も高まると評価されている。現場では、華為技術(Huawei)製スマホ端末(栄燿 V30)を
持つ作業員が遠隔操作されるロボット消毒車と 5G ネットワークを介して接続される。5G
の超低遅延の特長により、作業員はほぼタイムラグなしで消毒車の作業を正確に制御でき
る。また高速大容量という特徴により消毒車から高画質の画像もリアルタイムに送信可能
であった。このように、作業員はリモートで同端末を通じて消毒状況を確実に確認しながら、
必要か所の消毒を漏れなく実行できた。
4 応用事例その 3:5G 遠隔医療カート
中国移動が 2020 年 2 月、武漢市にある新型コロナウイルス感染症専門病院の火神山医院
に「5G 遠隔医療カート」を導入した。これにより、武漢市以外の地域にいる専門家でも同
市隔離区域の患者を診察できるようになり、治療効率と治療効果の向上につながった。
「5G 遠隔医療カート」は、医療用カートの設備に中国移動のクラウドと接続できるビデ
オ会議用の端末を設置し、そのクラウドビデオと遠隔デスクトップ機能を通じて、火神山医
院の第一線の現場にいる医療スタッフが現地の医療データ(CT スキャン映像、検査指標な
ども含む)を北京市にある総合病院と共有して専門家による遠隔診断を可能にしたもので
ある。
遠隔医療問診中は、双方の医療専門家がデータ・レートを通じて患者のカルテを共有する
が、画質が十分に鮮明であることが絶対条件である。このシステムは、1080 ピクセルの高
画質をサポートしており、中国移動の 5G ネットワークと華為技術(Huawei)の 5G 設備
を活用して高画像を保証し、専門家が高品質な遠隔医療診断を行うことを実現している。
5 応用事例その 4:5G+サーモグラフィー体温測定サービス
2020 年 2 月、中国聯通は 5G+サーモグラフィー体温測定情報化プラットフォームを発
表した。同プラットフォームは、生体認証技術、サーモグラフィー温度測定技術、動画イン
テリジェント分析及び 5G などの技術要素を融合し、効果的な予防及び速やかなコントロー
ルという目標を実現し、企業、学校、ビジネスなどのさまざまなシーンの安全な運営をサポ
ートする。
福州駅に導入された同サービスは、旅行客の体温測定及び通行効率は 10 倍以上向上させ
た。また、監視カメラにより体温の異常な個体を撮影し、重点的に徹底検査することで、事
前の予防、検査段階の処理及び事後のトレーシングにおける業務効率が向上し、感染症対策
に多くの利便性をもたらしている。
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6 応用事例その 5:5G+VR によるライブ配信
在宅規制期間中、中国移動が 5G+VR による「クラウド桜観賞」のライブ配信を実施した
事例では、高精細・360 度撮影のできるパノラマカメラを用いたマルチビューで、桜満開の
美しい武漢大学の風景が全方位で映し出された。しかも「AI 頭脳」が備えられている 4K ラ
イブ配信車も 5G ネットワークを介しての遠隔操作によるもので、外出のできない人々の
「目」となり「足」となり、大きな役割を果たした。
7 終わりに
こうした多くの事例を分析した CAICT の報告書には、現段階の法人向けサービスの課題
も挙げられている。一つは、5G 基地局の数がまだ限られているなか、現段階の利用は主に
屋内に限られていること。もう一つは、各業界との融合について、それぞれの分野のニーズ
にばらつきがあるため、個別のニーズに合わせて開発されたユースケースの普及は難しい
点が指摘されている。
新型コロナウイルス感染症の影響による経済の減速を回復させる一連の方策の中でも、
5G をはじめとする新しいデジタル技術への期待がさらに高まってきている。5G の発展ス
ピードのさらなる加速を図る施策として、工業・情報化部は 2020 年 3 月に「5G の発展加
速の推進に関する通知」を発表し、5G の建設ペースを加速する方針を打ち出した。中では、
5G ネットワークの構築の加速化はもちろん、特に 5G の利活用を通じた新型消費モデルの
開発が強調されている。例えば、5G と VR/AR との融合、e スポーツのライブ配信、ゲー
ム・エンターテインメント、バーチャル・ショッピングへの応用、通信事業者やメディア企
業、コンテンツサプライヤーなどの協力の強化による教育やメディア、エンターテインメン
トなどの分野での 4K/8K、VR/AR といった新型マルチメディアコンテンツの実現が推奨さ
れている。CAICT の試算では、2025 年までにこれらの関連新型消費の市場規模は8兆元2
に達するとされている。
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