https://www.manabinoba.com/class_reports/3601.html 【インターネット句会で俳句を楽しむ】より
東京都中野区立第八中学校
"世界で一番短い詩"俳句は現在、静かなブームとなっている。今ではインターネットで投句や選句を行い、いつでも、どこにいても気軽に参加できる。このような便利なツールを手に入れた俳句は、HAIKUと呼ばれ、世界中に広がり、親しまれている。今回は、東京都中野区立第八中学校1年生の俳句の授業に伺った。地元の専門家を招いて話を聞いたり、インターネットを利用した句会の様子をレポートする
■“よく観て、感じること”が俳句の第一歩
中野区立第八中学校の音楽室の黒板には、1年生の生徒たちが作った俳句がところ狭しと並んでいる。今日は俳句の専門家を招いての授業だ。同校国語科の加藤英樹先生が紹介するのは、本日のゲスト講師で地元の俳句専門家、青柳仁人先生だ。現在、75歳で、俳句は旧制の中学時代からはじめて50年のキャリア。戦後、朝鮮から引き揚げ、中学に編入し、俳句部に入部したことがきっかけだったという。
「俳句を作る人間として、ぜひ皆さんに覚えてもらいたい言葉があります。それは、“継続は力なり”です。これは生きていくうえで一生かかわる言葉だと思います。「俳句は物を“みて”考え、言葉で表します。同じ“みる”でも違いがあります。例えば、“見る”、これはさーっとみるだけ。すぐに忘れてしまうようなこと。次に“視る”は、視察の視、細かくみること。そして、“観る”。これは、観察って言葉からもわかるように、深くみる、考えながらみること。花がきれいだと思ったら、なぜきれいなのか?色がいろいろあるから?日の光が当たっているから?というような感じで深くみることです。“観る”ことは、感動すること。これが俳句の第一歩です」
ここで、青柳先生から挨拶句が披露される。挨拶句とは、どこかへ出かけた時、その土地のことを感じて詠む句のことだと説明する。
高天へ とどけ 八中俳句会
「このように詠んでみましたが、“高天へ”は“秋天へ”でもいいかもしれないし、“とどけ”は“ひびけ”や“とどろけ”でもいいかもしれないね。このように詠んだ句をもう一度、いろいろな角度で考えてみることを“推敲”と言います。この句をみんなにも推敲してもらおうかと思います。いいと思う方へ手を挙げてください」
「まず、はじめの部分、上五は“高天へ”がいいと思う人?“秋天へ”がいいと思う人?」
まだ、わかっていないようで挙手はまばら。
「“高天へ”が多いかな?」
「真ん中の部分、中七は“とどけ”がいい人?“ひびけ”は?“とどろけ”は?」
徐々に挙手が増えてくる。
「“ひびけ”がいいようだね。天に響き渡るようだね。なら、先ほどの挨拶句はこうなるよ」
高天へ ひびけ 八中俳句会
同様に青柳先生が詠んだもう一句についても多数決で推敲する。
次に、黒板に貼り出された生徒たちの句について青柳先生が講評する。
鈴虫が リーンとなくと 秋告げる (R.Mくん)
「この句は、季語が二つで、“季重ね”と呼ぶんだけど、よく見ると“鈴虫”に重点が置かれているね。このようにどちらかにポイントがあれば俳句として成り立ちます」
紅葉が 夕日と一緒に 笑ってる (H.Kくん)
「紅葉が実際に笑うことはないけど、この人には笑っているように感じたんだね。これはおもしろいね」
他にもいくつかの句について講評し、最後に青柳先生からこんなお願いが。
「家に帰ったらぜひ、家族の人にも教えてあげて、家族みんなで詠んでほしいです。また、俳句だけでなく人生に何かひとつ趣味を持つようにしてください。そうすれば、心が豊かになります」
この授業以前に、インターネットを利用して俳句に関する調べ学習も行ったというが、自分たちが作った俳句について直接、専門家から講評を受けることで、調べた内容をより深く理解できたのではないだろうか。
「青柳先生からお話をお聞きすることで、俳句の専門家ならではの幅広い知識を教えてもらいました。今日のお話を参考によりよい一句を詠んでもらい、投句してもらう予定です」と加藤先生。
■初めての句会に緊張が・・・
それから一週間後、いよいよインターネット句会の時間がやってきた。
今回は、日本写真印刷株式会社と日本文教出版株式会社、株式会社秀学社が協同で開発した「句会システム(試作版)」を利用した。これは、「インターネットと俳句で子どもの感性と表現力を育てる」という主旨のもと、昨年の8月から日本写真印刷株式会社と日本文教出版株式会社、株式会社秀学社が協同で開発を進めているシステムだ。投句→選句→発表がパソコンの画面上で簡単に行うことができるとういもの。感想の交換は、現在、別のグループウエアを利用している。このようなインターネットを利用した句会システムはすでにいくつか存在するが、この句会システムが目指しているのはずばり「学校で使いやすいこと」。
「自分が作った俳句をサイト上に登録(投句)し、投句された俳句の中から心動かされた俳句に票を投じ、集計結果をもとに選ばれた俳句がどのような理由で選ばれたかを相互評価する。つまり、表現と鑑賞が同時にできるシステムづくりを目指しています」と話すのは、この句会システムの開発に携わった日本文教出版株式会社の榊正昭さん。
まずは各自、パソコンに向かい句会システムの投句画面に考えてきた自作の句を投句する。「では皆さん、投票してください」という加藤先生の合図で一斉に投票に入る。投票画面から自分がよいと思った句を三つ選んで投票する。投票の際、作者の名前は表示されないので、誰の作品かはわからない。一句一句画面を見つめて選考する生徒たち。友だちはどんな句を入れたのだろう?自分の句は選ばれるかな?自分の句に入れてしまおうかな?そんなちょっとした緊張の中、投票も完了。投票はリアルタイムで結果に反映する仕組みになっている。
「おおーっ」早速、投票結果を見て、歓声があがる。
「はい、一番票の多かったKくんに拍手!」
枯れ葉舞う 色鮮やかな 雲の下 (K.Aくん)
紅葉の葉 黄から赤へと 着がえてく (T.Aさん)
赤い手を 四方に伸ばす もみじたち (W.Uさん)
夏が去り 紅葉の葉が 咲き誇る (A.Fくん)
「みんな、前回詠んだ句よりよくなった感じがするね」と加藤先生。
最後は自分の句についての説明と、上位に選ばれた句はどんなところがよかったのかをワープロでまとめた。例えば、Uさんは自身の句について、「もみじは、赤くて人の手のようだから、“赤い手”。その手が、1つの木から色んな方向にむかって伸びようとするすがたから“四方にのばす”。この2つをつなげてこの俳句をつくりました」と説明する。上位に選ばれた句については、「その情景が目に浮かぶよう」「表現力がある」という理由を挙げた生徒が多かった。中には「優しいUさんらしさが出ていた」という意見も。
今回利用した句会システムについては、特に操作に困った生徒もなく、授業後の感想でも「一人一人が気に入った作品を投票できるのがよかった」、「みんなで投票しあい、良いところ悪いところなどを指摘しあって、自分の感性をより磨くことができる、システムだと思いました」と好評だった。
■俳句を通じて豊かな心を育てたい
榊さんは、授業後、
「何よりも、生徒たちが,パソコンに向かいながら、5・7・5と指折り数えては打ち込んでいる姿が印象的でした。ノートに書くのとちがって、パソコン俳句は訂正が簡単、打っては読んで確かめ、また訂正して・・・・。何度も何度も訂正して、結局できない生徒も見かけましたが、訂正せずに、次々と書いて、比べてみるというのも俳句の楽しみだと思います。このシステムを使って2クラスのクロス投票を行った結果、上位に同じような句が選ばれることは予想できましたが、各クラスでかなり見かけた0票が、2クラス総合すると一人もいなかったことは驚きました。“参加者が多ければ、誰かは自分の句をいいと思ってくれる人がいる”ということは、生徒たちにとってうれしいことだと思います」と感想を語り、今後は、川柳や標語など俳句以外での活用や、感想などを書き込める掲示板の連動も考えてみたいと話した。
最後に、加藤先生は授業をこう振り返った。
「インターネットの利用は、俳句の世界を、学校教育での学習という狭い範囲から、趣味という生涯学習へと広げる窓口になると思います。今回は、2クラス間だけでの実施でしたが、このシステムは、投稿・投票・結果と、クラスや、クラス外の仲間と楽しむことができます。ただし、俳句を一首ごとに、じっくりと読み味わうという学習はできませんので、これは教室でやった方がよいかもしれません。本来、中学1年生で俳句を学ぶことはありませんが、今回は“豊かな心を育てる”という、本校の教育目標にそって、物事をじっくり見て、心静かに感じる感性を育てたいと思いました。そして、できれば行事毎に俳句を作り、校内が俳句で飾れるような学校にし、本校の特色としたいと考えています」
(取材・編集:学びの場.com)
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