http://kangempai.jp/essay/2021/03senoo.html 【俳句とコミュニケーションについて
妹尾 健】より
みなさんもご承知の通り、わが国は現在たいへんな状況に置かれています。 ひとつはいうまでもなくコロナの感染症状の深刻化です。いま私達はそれに気をとられていますが、他のひとつは高齢社会の到来です。
いや到来などと悠長なことをいってはいられません。そのスピードといい、及ぼす影響は大きな社会環境の変化を生み、これまでにない生活状況の変化を引き起こしています。
コロナの発生と高齢社会の到来はこれまでの我が国が漠然として持っていた未来への安易な予想を覆す時代がやってきたことを感じさせます。こうした現実にともなって俳句もまた変貌の予感が身近に迫りつつあることを実感させます。
俳句はこれまで時代や社会の影響をうけながら、厳として形式を守ってきた、とおっしゃる方もおられます。 他方、俳句は時代とともに新たな進化を遂げていかねばならない、というご意見もあります。
大体に分けて考えてみると、この2つの方向に分けられますが、その前にすこしコミュニケーションの問題について考えてみましょう。
筆者は長く教壇にたっていたものですが、最近、ある中学生から先生は何年のお生まれですか?と質問されました。よくある質問です。
「1948年10月です。」と答えますと、なんとその生徒は「じゃあ先生は戦争中のお生まれですね。」と平然と言うのです。
絶句しました。おい、おい、と言いたくなりましたが、完全に世代間どころではない相違を感じてしまいました。
つまりこれは日本人としての共通の体験がどこかで切れてしまっているということになります。
そこでコミュニケーションという問題が出てきます。つまり他人との間の交流や齟齬を考えでみようというわけです。
実は先日私の通っている公民館講座の「健康元気アップ体操」の研修会でコミニュケーションの講座がありました。それが俳句とどんな関係があるのか、などといわないで、まあ聞いて下さい。 コミニュケーションの領域には2つの領域があるというのです。
①は言語コミニュケーションー主に意識的・直接的
②は非言語コミニュケーション―主に無意識・間接的 例 表情 しぐさ 態度などです。
このうち②の非言語の威力はどのくらいかという実験をアルバート・メラビアンという心理学者の実験結果をききました。 その方法は視覚(表情・しぐさ)・聴覚(話し方)・言語(話の内容)といったもので矛盾した情報をあたえられたときに、人はどれを優先して受け止め情報に対する態度や判断をするかといった結果を見てみました。
この方法から導き出される結果を「メラビアンの法則」というのですが、ほぼ一般的な結果として視覚55%・聴覚38%つまり、言語では7%にといった結果が出てきました。
視覚・聴覚が圧倒的に相手とのコミニュケーションの判断要素になっているというわけです。
これは対人関係における一例ですが、これをチームでのコミニュケーションまで考えますと、チーム(句会なども入ります)内に情報が入ってくると、情報はまず3段階で整理しなければなりません。
○事実
○解釈
○価値観・観念
です。
その情報が、今の段階でどこに属しているのかということです。そして今の段階でそれぞれ段階の階というべきものをそろえておかねばなりません。 これをそろえておかないとひとつの情報に対する、事実と解釈、解釈と価値観に観念の対立 事実関係の判別ができなくなるおそれが出てくるのです。
相手の意見がこちら側に伝わってこない、相手が言っている意味が受け止められないなどということになります。 これは結局事実をどう解釈し、その解釈によって、自分の持つ価値観・観念を相手にどうつたえていくのかということになります。
起っている事柄・情報について自分の価値観や解釈・観念を強引に主張したり大きな声で相手を捩じ伏せたりすることは相手を萎縮させてしまいます。情報や事実のことよりもさきに、その人に対する視覚・聴覚による判断が先行するのです。
「あの人はいつも上から目線でものをいう」「いつも大きな 声でものをいう」「不満ばかり先に出てくる」という判断を相手に与えてしまうのです。
俳句などの文学作品の評価などにおいても、こうした価値観・観念の論争になってしまうのです。文学作品にとってもっとも大切なものは価値観や観念の主張ではなくて、作品そのものを事実として把握することです。そしてあの3つの領域に従って議論がすすめられていくことです。
俳句にはまず形式があり、句会には作法があります。句会の要領、司会者の分担、披講者の役割主宰者の判断や批評は心得ておかねばなりません。
また時代によって言葉の使用例も変化します。俗語を正すことはもちろんですが、口語調の導入や文法の約束など知っておくのは必要なことです。さまざまな試行の上に立って俳句の文学的創造を進めていきましょう。
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