茸 (くさびら)

http://www.asahi.com/special/kotoba/archive2015/danwa/2012102700001.html#:~:text=%E3%80%8C%E3%81%8F%E3%81%95%E3%81%B3%E3%82%89%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%BC%A2%E5%AD%97%E8%A1%A8%E8%A8%98,%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82 【呼び名も形もいろいろ~「きのこ」入門】より

 朝晩冷え込むようになりました。この季節、食べても食べてもおなかがすきます。果物もおいしいし、サンマもおいしいし、何もかもがおいしく感じられるようになりました。

 きのこもおいしいので、毎日きのこを買ってきて料理しながら、せっかくだから少し勉強しようと私は決心したのです。

 都会に暮らしていると、日常的にはスーパーに並んでいるお行儀の良いきのこにしかお目にかかれません。生きているきのこを探しに、神戸から阪急電車に乗って京都へ向かいました。

 ●京都で出会ったきのこたち

 下鴨神社の糺(ただす)の森に「瀬見の小川」という小さな川があります。そこで見つけたのが下の写真です。小さくておいしそうでナメコみたいに見えます。

拡大ナメコみたいな小さなきのこ

 次はもう少し大きめで、ヒラタケかな? ヒラタケだったら食べられますね。

拡大ヒラタケかな?

 3枚目。柄の長いのがたくさん生えているので、私は見慣れないもんだから、ちょっと怖くなりました。だいぶ奥の方に巨大な根っこみたいなものが埋まっていそうです。きのこ図鑑の写真と見比べたらナラタケのような気がしてきました。

拡大ナラタケに似ている

 この三つは食べられそうな姿です。でも私はきのこの素人だから、大丈夫かどうか分からないので、採って食べたりはしませんでした。

拡大きのこ文庫

 京都府立植物園にも行ってきました。未来くん広場の「きのこ文庫」が目的です。この広場にはベンチがあって、おばあさんたちがお弁当を広げていました。きのこ文庫の中に、きのこ関係の本があるのなら見せてもらおうかと思ったら、主に自然科学系の児童書や絵本などが、きのこの柄の中の本棚にぎっしりと詰め込まれていました。

 この屋根はベニテングタケの模様ですね。

 植物園だから花ばっかりだし、本物のきのことの遭遇は期待していなかったのですが、植物生態園という自然に近い姿でいろんな木が植えてある場所へ行ってみました。すると、小さい川がちょろちょろ流れてジメジメした所に倒れた(倒した?)木に生えていました。

 写真では分かりにくいですが、美しい模様に見入ってしまったのがこれで、積み重なってさらに増殖しようとしているかのようです。

拡大カワラタケかもしれない

 カワラタケに似ています。カワラタケの名前の由来は屋根瓦を積み重ねたような姿だからという話で、日本の毒きのこ図鑑に載っていますが、クレスチンというがんの薬の原料にもなります。ただし、その効果に疑問があることも指摘されて、現在はあまり使用されていない模様です。

 カワラタケはサルノコシカケ科です。腰掛けても大丈夫なくらい硬いからサルノコシカケって言うのだそうです。調べてみたら、サルノコシカケ科は各地でいろんな方言があって、イタチコシカケ、オカマノコシカケ、オニバアサンノコシカケ、ガマノコシカケなど。どうしてこんな変な名前ばかりつけたんだか。。。

 うじゃうじゃと積み重なる黄土色の、この不気味なやつも「何かの腰掛け」って呼ばれているのでしょうか。このあたりで野良猫を見かけました。ネコノコシカケ?

拡大うじゃうじゃ積み重なる黄土色

 毒きのこで有名なテングタケも面白い呼び名があって、ハエトリタケ、ハエトマラズ、ハエゴロシなど。白土三平さんの漫画に蠅の捕まえ方が紹介されていました。

 『ハエを集めるには、毒キノコ(テングタケ)のカサを火であぶり、よいカオリが四方に広がるころ、それを自分の欲する場所においておけばよい。もちろん、ハエはこの上にとまり、やがて死ぬ。』

 ところで、きのこは木に生えるから「木の子」だと私は信じていました。だから、きのこは木にしか生えないものと思い込んでいたら、ワライタケなどは地面の上に生えるそうですね。見たことがない私が知らなかっただけのことで、ケラケラ笑えるのなら食べてみたい気もしますけど、これは毒きのこなので食べてしまったら大変なことになります。

 地上に突然出現するきのこは、地中で菌糸を蓄えたものが姿を現す仕組みで、その地面を掘ってみると廃木が埋まっていたという話もあります。

 たとえばハタケシメジは、畑だけでなく家の床下などにまで生えてきます。松本零士さんの漫画「男おいどん」に出てくる、押し入れの中に放り込んだパンツの山に生えるサルマタケもその仲間かもしれません。ラーメンに入れて食べてしまっていたからねぇ。。。

 ●慣用句にも狂言にも

 普通の古語辞典をひいてみたら「きのこ」は見つからず、きのこを意味する「くさびら」「たけ」なら載ってました。現代と同様、書き言葉と話し言葉との間の溝みたいなものが存在したことも想像されます。方言もいろいろあったのでしょうね。「ナバ」「コケ」「ミミ」と呼ぶ地方もある(あった?)とか。

 きのこを意味する漢字は茸のほかに、菌もあります。ほかにも難しい字がありますが、難しい漢字の形の説明は他の人にまかせることにします。

 また、「きのこ」と読める漢字表記は、「岐乃古」「木乃子」「潔乃忽」などで、これは当て字なのかな?

 ドイツ語だと、「雨後のたけのこ」に相当する慣用句が「雨後のきのこ(wie Pilze aus der Erde schiessenなど)」です。

 あちらでは竹は生えないでしょうから、きのこの慣用句があるのですね。

 このピルツ(Pilze)はキノコ、菌類を指します。水虫はFusspilz(Fussは足のこと)とも呼ばれます。水虫は「足のカビ」だし、きのこもカビの親戚みたいなもんなんかな。

 ですから、条件が整うとウジャウジャ増えて困ったことになります。以下の話は、きのこが登場する狂言「くさびら」のあらすじ。

 家の庭にキノコがおびただしく生えて困り果てた男が、山伏にきのこ退治の祈祷を頼んでみました。山伏がきのこに向かって「ボロンボロボロンボロ」と祈ると、きのこが「ホイホイホイホイ」と返事をして、まず二つ現れます。

 もったいぶった山伏が続けて「ボロンボロボロンボロ」と祈ると、きのこが「ホイホイホイホイ」と、さらに二つ現れ、「ボロンボロボロンボロ」、「ホイホイホイホイ」。(以下省略)

 ウジャウジャ増え続けたあげく動き回り始めたきのこが、山伏にいたずらをするので、山伏は「ゆるいてくれい、ゆるいてくれい」と叫びながらほうほうの体で逃げ帰ってしまいました。

 「くさびら」の漢字表記は、流派によって「菌」と「茸」の2種類あり、お面をつけた鬼茸が出るものと出ないものとがあるそうです。

 下鴨神社のきのこは生きた木の根元にありました。一方、植物園のきのこは倒れて死んでしまったらしき木に生えていました。これは、きのこの菌の種類によります。

 生きた木と共生しながら養分をやりとりする菌根菌と、死んだ木やワラなどから養分を分解吸収する腐生菌です。

 シイタケは死んだ木(ほだ木)に生えますが、ホンシメジやマツタケは生きた木にしか生えないので栽培が難しいから高価ですよね。

 「青森の朝市へ行くと、見たことがないきのこがいっぱいあるから遊びに行ってごらんよ」と京都に住む友人が教えてくれました。

 私は神戸在住なので、六甲山に青いきのこ(ソライロタケというらしい)が生えているのを見て驚いたことはありますが、まだ東北へ行ったことがありません。

 いずれ、カメラを提げて面白いきのこ発見旅行へ行ってみたいものです。



https://kyogen.co.jp/outline/post_76/  【 茸 (くさびら)】より

登場人物

山伏・家主・茸多数(不定)

上演時間

約25分

屋敷の庭に茸が生えて困っている男。抜いても抜いても、翌日にはまた生えてくる始末です。男は山伏のもとを訪ね、茸封じの祈祷を頼みます。引き受けた山伏は屋敷へ出向き、さっそく祈祷を始めるのですが・・・。

山伏の登場する狂言には大別して、『腰祈』のような祈りが効き過ぎる演目と、『梟山伏』や『禰宜山伏』など祈りの効果が表れない演目があります。かつてこの『茸』を鑑賞した外国人が、「まるでベトナム戦争を見るようだ。」と評した事があるそうです。いづれにしても、山伏の困惑・狼狽ぶりが笑いを誘い、人間と自然との共生もテーマに持つ、見どころの多い作品となっています。

茸を演じる役者の動き≪キノコ歩き≫は、静と動を巧みに表現して、見た目以上の体力と精神力を要します。また当方山脇派では、〔ラスボス〕の如く登場する鬼茸と山伏との対峙、即ち ”最終決戦” の演出があります。

大藏流では、『菌(くさびら)』と表記する流派もあります。


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