夏の風を表す言葉

http://kigosai.sub.jp/archives/2026  より

夏(なつ) 三夏

【子季語】

三夏、九夏、炎帝、朱夏

【解説】

立夏から立秋の前日までの約三ヶ月間の季節をいう。気象学では夏至から秋分まで。四季の中で最も暑く日差しが強いのが特徴。三夏とは爽やかな暑さの初夏、梅雨どきの蒸し暑さの仲夏、炎暑の晩夏をいう。九夏は夏九十日間のことをいう。

【例句】

世の夏や湖水にうかぶ波の上 

芭蕉 「蕉翁句集」

夏旅や母のなき子がうしろかげ

白雄 「白雄句集」

ずんずんと夏を流すや最上川

正岡子規 「季語別子規俳句集」

切味噌のひなた臭さや夏泊り

嵐雪 「玄峰集」

見のこすや夏をまだらの京鹿子

蕪村 「落日庵句集」

「日の丸」が顔にまつはり真赤な夏

中村草田男 「中村草田男全集5」

かなしさよ夏病みこもる髪ながし

石橋秀野 「桜濃く」

プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ

石田波郷「病鴈」

仰ぎゐて我になりゆく夏の鷹

森澄雄 「四遠」

立夏(りっか) 初夏

【子季語】

夏立つ、夏に入る、夏来る、今朝の夏

【解説】

二十四節気の一つ。陽暦の五月六日ごろ。暦のうえではこの日からが夏。実感からするといささか早い気もするが、もう夏に入りましたと定められると、目に入る景色も新しい夏の光を纏いはじめたように思える。 

【例句】

夏立つや未明にのぼる魚見台

高田蝶衣 「青垣山」

藤垂れて立夏の急雨到りけり

臼田亜浪 「白道」

毒消し飲むやわが詩多産の夏来る

中村草田男 「万緑」

楠に風東海大学夏に入る

長谷川櫂 「初雁」

夏めく(なつめく) 初夏

【子季語】

夏きざす

【解説】

春の花々が終わって緑の世界にかわり、初夏の花々が咲き始め、あたりは夏の景色に近くなった様子である。生活面も夏らしい感じに変る。

【例句】

夏めきて人顔見ゆるゆふべかな

成美 「成美家集」

夏めくや花鬼灯に朝の雨  

中村楽天 「改造文学全集」

夏めくや合わせ鏡に走る虹 

久米三汀 「返り花」

夏めくや庭を貫く滑川

松本たかし  「松本たかし句集」

麦の秋(むぎのあき) 初夏

【子季語】

麦秋、むぎあき

【解説】

麦の穂が成熟する五月から六月頃をいう。日に輝く黄金色の穂は美しく、麦畑を風がわたるときの乾いた音も耳に心地よい。

【例句】

深山路を出抜けて明けし麦の秋

太祗 「太祗句選」

夕暮や野に声残る麦の秋

楚秋 「五車反古」

麦秋や雲より上の山畠

梅室 「梅室家集」

麦秋や日出でゝ霞む如意ヶ嶽

日野草城 「花氷」

網棚に帽子の箱や麦の秋

長谷川櫂 「天球」

水無月(みなづき) 晩夏

【子季語】

風待月、常夏月、青水無月

【解説】

陰暦六月、陽暦の七月ころにあたる。炎暑のため、水が涸れ尽きて地上に水の無い月と解されている。酷暑にあえぎながら風待つうちに、時に雷鳴や夕立を催し、夕暮れの涼しさには秋の気配を覚えるといった時候である。この月の晦日に夏越の祓を行い、身を清める。

        

【例句】

水無月や伏見の川の水の面 

鬼貫 「大悟物狂」

水無月や鯛はあれども塩鯨 

芭蕉 「葛の松原」

水無月の朝顔すずし朝の月

樗良 「樗良発句集」

水無月の限りを風の吹く夜かな 

闌更 「半化坊発句集」

骨髄に青水無月の芭蕉かな 

蓼太 「蓼太句集三編」

戸口から青水無月の月夜哉

一茶 「八番日記」

六月や峯に雲置くあらし山 

芭蕉 「句兄弟」

六月の埋火ひとつ静かなり

暁台 「暁台句集」

温泉あれど六月寒き深山哉 

闌更 「半化坊発句集」

六月の氷もとどく都かな

蓼太 「蓼太発句集」

短夜(みじかよ) 三夏

2011/02/05

【関連季語】

明易

【解説】

短い夏の夜をいう。春分の日から昼の時間が長くなり夜の時間は夏至にいたって、もっとも短くなる。その短さ、はかなさを惜しむ気持ちを重ねて夏の夜を呼んだのが短夜という季語である。

【例句】

短夜や隣へはこぶ蟹の足

其角 「花摘」

短夜や木賃もなさでこそ走り

惟然 「有磯海」

短夜や牡丹畠のねずみがり

浪化 「国の華」

短夜や朝日にあまる鶏の声

千代女 「真蹟俳句帳」

短夜や来ると寝に行くうき勤め

太祗 「太祗句選後篇」

みじか夜や枕にちかき銀屏風

蕪村 「蕪村句集」

短夜や夢も現も同じこと

高浜虚子「七百五十句」

短夜の雨ぱらぱらと百合畑

長谷川櫂 「天球」

暑し(あつし) 三夏

【子季語】

暑さ、暑、暑気、暑熱

【解説】

北太平洋高気圧から吹き出す風が高温と湿気をももたらし、日本列島の夏季はたびたび耐え難い蒸し暑さに見舞われる。しかしこの暑さなくして秋の実りも有り得ず、恵みの暑さでもある。

【例句】

暑き日を海に入れたり最上川

芭蕉 「奥の細道」

水無月はふくびやう(腹病)やみの暑かな

芭蕉 「葛の松原」

行く馬の跡さへ暑きほこりかな

杉風 「別座鋪」

葛原もまた静かなる暑さかな

杉風 「のぼり鶴」

うろうろと肥えた因果に暑さかな

路通 「きれぎれ」

来て見れば森には森の暑さかな

千代尼 「千代尼句集」

百姓の生きてはたらく暑さかな

蕪村 「蕪村書簡」

日の前の浮雲暑き蔭りかな

白雄 「白雄句集」

あら壁に西日のほてるあつさかな

正岡子規 「子規句集」

蝶の舌ゼンマイに似るあつさかな

芥川龍之介 「澄江堂句集」

まだ暑くなりゆくけふの暑さかな

長谷川櫂 「初雁」

炎ゆ(もゆ) 晩夏

【解説】

ぎらぎらと輝く太陽の強い日差しによって、万物が燃えるような熱気をいう。照りつける太陽に道路はゆらめき、あたかも炎を上げているようにも思える。この季語は多分に視覚に訴えるところがある

灼く(やく) 晩夏

【子季語】

灼岩、日焼岩 熱砂

【解説】

真夏の太陽の直射熱に照りつけられて、熱く灼ける状態をいう。激しい暑さを視覚的に捉えた「炎ゆ」に対して「灼く」には火傷しそうな触覚がある。新興俳句の隆盛に伴う新しい季語。

【例句】

熱沙上力尽きたる河は消ゆ

加藤楸邨「砂漠の鶴」

千軒の瓦の灼くる堅田かな

長谷川櫂 「松島」

涼し(すずし) 三夏

2011/02/05

【子季語】

涼、涼気、涼味、涼意、朝涼し、夕涼、晩涼、夜涼、宵涼し、涼夜

【解説】

夏の暑さに思いがけず覚える涼しさは格別である。流水や木陰、雨や風を身に受けて安堵する涼もあれば、音感や視覚で感受する涼味もある。朝、夕、晩、夜、宵に涼を添え季語をなす。秋の涼は新涼、初涼といい区別する。

【例句】

このあたり目に見ゆるものは皆涼し

芭蕉 「笈日記」

涼しさを我が宿にしてねまるなり

芭蕉 「奥の細道」

涼しさや鐘をはなるるかねの音

蕪村 「蕪村句集」

かけ橋や水とつれ立つ影涼し

麦水 「葛箒」

大の字に寝て涼しさを淋しさよ

一茶 「七番日記」

涼しさや松這ひ上る雨の蟹

正岡子規 「子規句集」

水盤に雲呼ぶ石の影すゞし

夏目漱石 「漱石句集」

涼しさや門にかけたる橋斜め

夏目漱石 「漱石句集」

無人島の天子とならば涼しかろ

夏目漱石 「漱石句集」

涼しさは下品下生の仏かな

高浜虚子「五百五十句」

自ら風の涼しき余生かな

高浜虚子「七百五十句」

風生と死の話して涼しさよ

高浜虚子「七百五十句」

涼しさや錨捲きゐる夜の船

日野草城 「花氷」

をみな等も涼しきときは遠(をち)を見る

中村草田男 「長子」

どの子にも涼しく風の吹く日かな

飯田龍太 「忘音」

水底の砂の涼しく動くかな

長谷川櫂 「天球」

涼しさや赤子にすでに土踏まず

高田正子 「玩具」

秋近し(あきちかし) 晩夏

【子季語】

秋隣、秋隣る、秋の隣、来ぬ秋、秋迫る、秋風近し

【解説】

晩夏のころ、藍を帯びはじめた空の、一刷の白い雲や、木々のそよぎに、秋が近いことを感じる。 

【例句】

波の音も秋風近し西のうみ

玄旨 「九州道の記」

けに涼しあすくる秋の雲の色

和風 「三千化」

物の葉のそよきに濱の秋近し

里紅 「藤首途」

秋近き心のよるや四畳半

芭蕉 「鳥の道」

変化めく雲や一夜の秋近し

浪化 「白扇集」

窓の火や秋を隣の藪の中

逸洞 「水薦刈」

鏡見てゐる遊女の秋近き

正岡子規 「子規句集」

夜の秋(よるのあき) 晩夏

【解説】

夏の終り頃、夜になると涼しく何となく秋めいた感じのすることが

ある。立秋も近く去りゆく夏に一抹の寂しさを感じたりする。

【例句】

玉虫の活きるかひなき夜の秋

暁台 「暁台遺稿」

俳諧の寝物語や夜の秋

赤星水竹居 「雑詠選集」

片よせて宵寝の雨戸夜の秋

石橋秀野 「桜濃く」

家かげをゆくひとほそき夜の秋

臼田亜浪 「旅人」

尽?の余香ほのかや夜の秋

日野草城 「花氷」

凭り馴れて句作柱や夜の秋

松本たかし 「たかし句集」

灯の下の波がひらりと夜の秋

飯田龍太 「童眸」

石鹸のにほえる娘夜の秋

長谷川櫂 「蓬莱」

雲の峰(くものみね) 三夏

【季語】

積乱雲、入道雲、峰雲

【解説】

盛夏、聳え立つ山並みのようにわき立つ雲。積乱雲。夏といえば入道雲であり、夏の代名詞である。強い日差しを受けて発生する激しい上昇気流により、巨大な積雲に成長して行く。地方により坂東太郎・丹波太郎・信濃太郎・石見太郎・安達太郎・比古太郎などとよばれる。

【例句】

雲の峰幾つ崩れて月の山

芭蕉 「奥の細道」

ひらひらとあぐる扇や雲の峰

芭蕉 「笈日記」

湖やあつさををしむ雲のみね

芭蕉 「笈日記」

雲の峰きのふに似たるけふもあり

白雄 「白雄句集」

しづかさや湖水の底に雲のみね

一茶 「寛政句帖」

雲の峰白帆南風にむらがれり

正岡子規 「子規句集」

雲の峰雷を封じて聳えけり

夏目漱石 「漱石俳句集」

雲の峰石伐る斧の光かな

泉鏡花 「鏡花句集」

空をはさむ蟹死にをるや雲の峰

河東碧梧桐 「碧梧桐句集」

厚餡割ればシクと音して雲の峰

中村草田男 「銀河依然」

雲の峰人間小さく働ける

星野立子「句日記Ⅰ」

雲の峯夜は夜で湧いてをりにけり?

篠原鳳作 「篠原鳳作句文集」

かつてここに堅田蕉門雲の峰

長谷川櫂 「松島」

夏の月(なつのつき) 三夏

【子季語】

月涼し

【解説】

夏の夜といっても暑苦さに変りはないが、古来より暑い昼が去って、夏の夜空に煌々と輝く月に涼しさを感じるというのが本意である。           

【例句】

蛸壺やはかなき夢を夏の月 

芭蕉 「猿蓑」

大井川浪に塵なし夏の月

芭蕉 「笈日記」

夏の月ごゆより出でて赤坂や

芭蕉 「向之岡」

月はあれど留守のやう也須磨の夏 

芭蕉 「笈の小文」

月見ても物たらはずや須磨の夏

芭蕉 「笈の小文」

手をうてば木魂に明る夏の月

芭蕉 「嵯峨日記」

市中は物のにほいや夏の月

凡兆 「猿蓑」

太秦は竹ばかりなり夏の月

士朗 「枇杷園句集」

河童(かはたる)の恋する宿や夏の月

蕪村 「蕪村句集」

蚊屋を出て又障子あり夏の月

丈草 「志津屋敷中」

少年の犬走らすや夏の月 

召波 「春泥句集」

南風(みなみ) 三夏

【子季語】

南吹く、南風(みなみかぜ)、南風(なんぷう)、正南風、大南風

【解説】

夏の季節風。冬の北風がからからに乾いているのに対し、この風は湿っていて暑苦しい。「みなみ」だけで風を省略した呼び名は、もともとは漁師、船乗り言葉だったことによる。

【例句】

風の香も南に近し最上川

芭蕉「続山の井」

尻ふりて蛤ふむや南風

涼莵 「喪の名残」

島影に海緑すや南風

青木月斗 (同人)

南風や化粧に洩れし耳の下

日野草城 「花氷」

青嵐(あおあらし、あをあらし) 三夏

【子季語】

風青し

【解説】

青葉の茂るころに吹きわたるやや強い風。若々しく力強い感じがする季語である。

【例句】

荒磯や月うち上げて青あらし

蓼太 「蓼太句集三篇」

城山の浮み上るや青嵐

正岡子規 「季語別子規俳句集」

汽車見る見る山を上るや青嵐

正岡子規 「季語別子規俳句集」

千年の礎を吹く青嵐

臼田亜浪 「旅人」

青嵐至ると見ゆる遠樹かな

日野草城 「花氷」

寝ころんで何の思案か青嵐

長谷川櫂 「果実」

風薫る(かぜかおる、かぜかをる) 三夏

【子季語】

薫風、薫る風、風の香、南薫

【解説】

夏に吹きわたる風をほめたたえた季語であるが、新緑、若葉のころの風として使いたい季語でもある。語源は漢語の「薫風」で、それを訓読みして和語化したものである。

風薫る羽織は襟もつくろはず

芭蕉 「小文庫」

ありがたや雪をかをらす南谷

芭蕉 「奥の細道」

風かをるこしの白根を国の花

芭蕉 「柞原」

さゝ波や風の薫の相拍子

芭蕉 「笈日記」

松杉をほめてや風のかをる音

芭蕉 「笈日記」

帆をかふる鯛のさはきや薫る風

其角 「五元集拾遺」

風薫れ風鈴の銘も小倉山

園女 「菊の塵」

高紐にかくる兜や風薫る?

蕪村 「落日庵句集」

青のりに風こそ薫れとろろ汁

蕪村 「新五子稿」

杉くらし五月雨山風かをる

暁台 「佐渡日記」

風薫る暮や鞠場の茶の給仕

乙二 「をのゝえ草稿」

薫風や蚕は吐く糸にまみれつつ

渡辺水巴 「水巴句集」

顔長きことが長者よとろろ汁

森澄雄 「四遠」

空間を縦横に切り風薫る

長谷川櫂 「初雁」

夕凪(ゆうなぎ、ゆふなぎ) 晩夏

【子季語】

夕凪ぐ

【解説】

海辺での現象。夕方、海風と陸風の入れ替わる時の無風状態をいう。瀬戸内のような内海では、この現象が特にはなはだしい。

【例句】

夕凪に油樽つむあつさかな      

几董 「晋明集二稿」

夕凪や行水時の裏通り

青木月斗 (同人)

梅雨(つゆ) 仲夏

【子季語】

梅雨(ばいう)、黴雨、梅の雨、梅霖、青梅雨、荒梅雨、梅雨じめり、梅雨前線、梅雨時、ついり、五月曇

【関連季語】

五月雨、梅雨晴、梅雨雷、梅雨曇、空梅雨、迎へ梅雨、送り梅雨

【解説】

六月ごろ、ひと月にわたって降りつづく長雨。さみだれのこと。ちょうど梅の実の熟れるころなので梅雨ともいう。梅雨の季節をさすこともある。

【来歴】

『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。

【実証的見解】

梅雨前線は、五月なかごろ、太平洋上で発生した高気圧が、洋上に張り出した大陸の高気圧とぶつかって発生し、太平洋高気圧の発達とともにしだいに押し上げられて、日本列島に近づく。六月中旬頃には日本列島に沿って横たわる形で停滞し、北海道と小笠原諸島を除く日本各地に大量の雨をもたらす。

【例句】

降る音や耳もすう成る梅の雨

芭蕉 「続山の井」

折釘の笠に雫や梅雨の中

可幸 「古選」

焚火してもてなされたる入梅哉

白雄 「白雄句集」

梅雨晴れや蜩鳴くと書く日記

正岡子規 「子規句集」

梅雨眠し安らかな死を思ひつゝ

高浜虚子「六百五十句」

樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ

日野草城 「旦暮」

梅雨荒し泰山木もゆさゆさと

日野草城 「旦暮」

抱く吾子も梅雨の重みといふべしや

飯田龍太 「百戸の谿」

梅雨の傘たためば水の抜け落つる

長谷川櫂 「天球」

五月雨(さみだれ) 仲夏

【子季語】

さつき雨、さみだる、五月雨雲

【解説】

陰暦五月に降る雨。梅雨期に降り続く雨のこと。梅雨は時候を表し、五月雨は雨を表す。「さつきあめ」または「さみだるる」と詠まれる。農作物の生育には大事な雨も、長雨は続くと交通を遮断させたり水害を起こすこともある。  

【例句】

五月雨をあつめて早し最上川

芭蕉 「奥のほそ道」

五月雨の降残してや光堂

芭蕉 「奥のほそ道」

さみだれの空吹おとせ大井川

芭蕉 「真蹟懐紙」

五月雨に御物遠や月の顔

芭蕉 「続山の井」

五月雨も瀬ぶみ尋ぬ見馴河

芭蕉 「大和巡礼」

五月の雨岩ひばの緑いつまでぞ

芭蕉? 「向之岡」

五月雨や龍頭揚る番太郎

芭蕉? 「江戸新道」

五月雨に鶴の足みじかくなれり

芭蕉 「東日記」

髪はえて容顔蒼し五月雨

芭蕉 「続虚栗」

五月雨や桶の輪切る夜の声

芭蕉 「一字幽蘭集」

五月雨にかくれぬものや瀬田の橋

芭蕉 「曠野」

五月雨は滝降うづむみかさ哉

芭蕉 「荵摺」

五月雨や色紙へぎたる壁の跡

芭蕉 「嵯峨日記」

日の道や葵傾くさ月あめ

芭蕉 「猿蓑」

五月雨や蠶(かいこ)煩ふ桑の畑

芭蕉 「続猿蓑」

さみだれやとなりへ懸る丸木橋    

素龍 「炭俵」

さみだれや大河を前に家二軒 

蕪村 「蕪村句集」

五月雨や魚とる人の流るべう

高浜虚子「五百句」

さみだれや青柴積める軒の下

芥川龍之介 「澄江堂句集」

夕立(ゆうだち、ゆふだち) 三夏

【子季語】

ゆだち、よだち、白雨、驟雨、夕立雲、夕立晴、村雨、スコール

【関連季語】

夏の雨、虹

【解説】

夏の午後のにわか雨、ときに雷をともない激しく降るが短時間で止み、涼しい風が吹きわたる。

【来歴】

『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。

【文学での言及】

よられつるのもせの草のかげろひて涼しく曇る夕立の空 西行法師 『千載集』巻三夏

【実証的見解】

夏の強い日差しで生じる上昇気流によって積乱雲が急激に成長し、局部的に激しい雨をもたらす現象。

【例句】

夕立にやけ石寒浅間山

素堂 「素堂句集」

夕立のあと柚の薫る日陰かな

北枝 「猿丸宮集」

夕立や草葉を掴むむら雀

蕪村 「蕪村句集」

夕立が始まる海のはずれかな

一茶 「七番日記」

夕立の鞍に着せたる合羽かな

森鴎外 「うた日記」

夕立や池に竜住む水柱

村上鬼城 「鬼城句集」

温泉の客の皆夕立を眺めをり

高浜虚子「六百句」

わだつみのゆふばえとほき夕立かな

日野草城 「花氷」

本願寺の屋根を襲へる夕立かな

日野草城 「花氷」

翠巒を降り消す夕立襲ひ来し

杉田久女 「久女句集」

大空を鳥流れ飛ぶ夕立かな

長谷川櫂 「松島」

夕立に忘れられたる玩具かな

高田正子 「玩具」

虹(にじ) 三夏

【子季語】

朝虹、夕虹、虹立つ、虹の帯、虹の梁、虹の橋、二重虹、白虹、虹の輪

【解説】

雨の後、太陽と反対側の空に現れるアーチ状の七色の帯。夏の季語とされているのは夕立の後あらわれることが多いためである。

【例句】

虹たるるもとや樗の木の間より 

召波 「春泥発句集」

わきもこや虹を見る眉あきらかに

日野草城 「花氷」

虹に謝す妻よりほかに女知らず

中村草田男 「万緑」

虹立ちし富士山麓に我等あり

星野立子「句日記Ⅱ」

雷(かみなり) 三夏

【子季語】

神鳴、いかづち、はたた神、鳴神、遠雷、落雷、来火、雷鳴、雷声、日雷、雷雨、雷響

【解説】

積乱雲の中などで雲と雲、雲と地上の間で放電現象が起きたもの。電光が走った後に雷鳴がとどろく。光と音の時間差でその遠近を測る。

【例句】

遠雷やひとり昼餉の青菜汁

石橋秀野 「桜濃く」

迅雷やおそろしきまで草静か

原石鼎 「花影」

雷落ちて火柱みせよ胸の上

石田波郷「病鴈」

安達太良の雷火に幾度通ひけむ

前田普羅 「定本普羅句集」

はたゝ神七浦かけて響みけり

日野草城 「花氷」

遠雷や福耳垂れて老法主

日野草城 「花氷」

鳴神や暗くなりつつ能最中

松本たかし 「鷹」

空港のごつた返せる雷雨かな

長谷川櫂 「初雁」

五月闇(さつきやみ) 仲夏

【子季語】

梅雨闇、夏闇

【解説】

梅雨時のころの鬱蒼とした暗さをいう。昼間の厚い雲に覆われた暗さでもあるが、月のない闇夜のことでもある。

【例句】

五月闇蓑に火のつく鵜舟かな

許六 「正風彦根躰」

二三日蚊屋のにほひや五月闇

浪化 「住吉物語」

しら紙にしむ心地せり五月闇

暁台 「暁台句集」

切りこぼす花屑白し五月闇

長谷川櫂 「富士」

朝曇(あさぐもり) 晩夏

【解説】

「旱の朝曇」といって、暑くなる日は朝のうち靄がかかって曇ることが多い。これは陸風と海風が入れ代る早朝に、前日の強い日差しで蒸発した水蒸気が冷えるためである。こうした気象現象が明治末期から新しい季語として認められた。

【例句】

皮となる牛乳のおもてや朝ぐもり

日野草城 「昨日の花」

夕焼(ゆうやけ、ゆふやけ) 晩夏

ゆやけ、夕焼雲、梅雨夕焼

【解説】

夕方、日が西の空に沈んだ後もしばらくは空が茜色にそまり、なかなか日がくれない。夏の夕焼は大地を焼き尽くすごとく壮大である。

【例句】

大夕焼一天をおしひろげたる

長谷川素逝 「暦日」

大夕焼消えなば夫の帰るべし

石橋秀野 「桜濃く」

日盛り(ひざかり) 晩夏

【子季語】

日の盛

【解説】

夏の一日、最も太陽の強く照りつける正午頃から三時頃までをいう。人間も動物も暑さにじっと耐えるひと時である。

【例句】

日ざかりをしづかに麻の匂ひかな

大江丸 「俳懺悔」

日ざかりや海人が門辺の大碇

正岡子規 「子規句集」

日盛りに蝶の触れ合ふ音すなり

松瀬青々 「松苗」

日盛や松脂匂ふ松林

芥川龍之介 「餓鬼句抄」

炎天(えんてん) 晩夏

【子季語】

炎気、炎天下

【解説】

太陽の日差しが強く、焼け付くような真夏の空のこと。

【例句】

炎天に照らさるる蝶の光りかな

太祇 「独喰」

炎天やさしくる潮の泡の音

渡牛 「新選」

炎天にあがりて消えぬ箕のほこり

芥川龍之介 「澄江堂句集」

炎天下くらくらと笑わききしが

加藤楸邨「颱風眼」

炎天に黒き喪章の蝶とべり

日野 草城 「旦暮」

炎天の蝙蝠洞を出でにけり

原石鼎  「花影」

炎天より僧ひとり乗り岐阜羽島

森澄雄 「鯉素」

炎天のかすみをのぼる山の鳥

飯田龍太 「春の道」

炎天の鹿に母なる眸あり

飯田龍太 「遅速」

炎天や大河の底をすなどれる

長谷川櫂 「果実」

片蔭(かたかげ) 晩夏

【子季語】

片かげり、夏陰、日陰

【解説】

午後の日差しが建物や塀などに影をつくる。歩くにも、少しでも日陰を選びたい夏。「緑陰」や「木下闇」とは、区別して用いたい季語。古くから長塀の片蔭などは存在していたのであるが、都市の構造物の変遷もあり、大正以降、よく使われだした季語でもある。

【例句】

見送るも夏は日陰や一里塚

李下 「別座敷」

井戸水を浴びて涼しき日陰哉

青木月斗 「月斗句集」

片蔭にぽつゝ宵宮参りかな

青木月斗 「月斗句集」

旱(ひでり) 晩夏

【子季語】

旱魃、旱害、旱空、旱天、夏旱、大旱、旱年、旱畑、旱草、旱雲

【解説】

太平洋高気圧に覆われて、連日雨が降らずに日が照りつけることをいう。旱魃とも言いい、地面は渇ききって草木は枯れてしまう。農林災害はもちろん、人々の飲料水にも深刻な打撃を与える。           

【例句】

畠にしてほし瓜となす日でり哉  

日能 「鷹筑波」

海賊の村に水汲む旱かな   

正岡子規 「子規全集」

大海のうしほはあれど旱かな

高浜虚子「五百句」

しらじらと明けて影濃し旱雲

前田普羅 「普羅句集」

大旱天智天皇の「秋の田も」

川端茅舎? 「川端茅舎句集」

大旱の空に鴉の啼きにけり

長谷川零余子 「零余子句集」

畳目に箒のひびく旱かな

長谷川櫂 「果実」

夏の山(なつのやま) 三夏

【子季語】

夏山、夏嶺、青嶺、夏山路、夏山家、青き嶺、山滴る、翠巒

【解説】

夏の青々と緑におおわれた山。新緑にはじまり、青葉の山、梅雨の山、鬱蒼と生い茂る盛夏の山など、その姿は次々と変化する。いずれも万物の生命力に溢れた山である。近代以降は、輝く岩山や雪渓の残る高峰もさす。 

【例句】

夏山に足駄を拝む門出哉 

芭蕉 「奥の細道」

夏山や雲井をほそる鷹の影?

支考 「市の庵」

夏山や通ひなれにし若狭人

蕪村 「蕪村句集」

夏山やうちかたむいてろくろ引く

蕪村 「蕪村遺稿」

夏山やえもしれぬ花の香に匂ふ

几菫 「写経社集」

夏の山しづかに鳥の鳴く音かな?

召波 「春泥発句集」

夏山や雲湧いて石横たわる?

正岡子規 「子規句集」

夏野(なつの) 三夏

【子季語】

夏野原、夏の原、青野、卯月野、五月野

夏野といえば美ヶ原とか富士の裾野など、広々としたところが思い描がかれる。風が渡ると青々と生い茂った草が、いっせいに靡いて大海原のようでもある。

【例句】

巡礼の棒ばかり行く夏野かな

重頼 「藤枝集」

馬ぽくぽく我を絵に見る夏野かな

芭蕉 「水の友」

もろき人にたとへむ花も夏野かな

芭蕉 「笈日記」

秣負ふ人を枝折の夏野哉 

芭蕉 「陸奥鵆」

我ひとり行くかと思ふ夏野かな

二柳 「やまかけ集」

一すぢの道はまよはぬ夏野かな

蝶夢 「露の一葉」

絶えず人いこふ夏野の石一つ

正岡子規 「子規句集」

夏の行きつくしぬ大河横たはり

石井露月 「露月句集」

ぐいぐいと山退いてゆく夏野かな

高田正子 「玩具」

卯波(うなみ) 初夏

【子季語】

卯月波

【解説】

陰暦四月、卯の花が咲く頃に海上に立つ波のこと。

【例句】

四五月の卯浪さ浪やほととぎす

許六 「宇陀法師」

散りみだす卯波の花の鳴門かな

蝶夢 「四国に渉る記」

揖音や卯波も寒き鳴門沖

梅室 「梅室家集」

江の島の裏はるかなる卯波かな

長谷川櫂 「初雁」

青田(あおた、あをた) 晩夏

【子季語】

青田面、青田風、青田波、青田道、青田時

【解説】

稲が成長し青々とした田になること。田は、植田から青田へ変わるのに一月も要しない。七月に入ると稲はさらにその丈を増し、青い穂がいっせいに風になびく。

【例句】

松風を中に青田の戦ぎかな

丈草 「丈草発句集」

なつかしき津守も遠き青田かな

蕪村 「落日庵句集」

むら雨の離宮を過ぐる青田かな

召波 「春泥発句集」

山々を低く覚ゆる青田かな

蕪村 「落日庵句集」

菜の花の黄なる昔を青田かな

蕪村 「落日庵句集」

傘さしてふかれに出し青田かな

白雄 「白雄句集」

涼風や青田の上に雲の影

許六 「韵塞」

松二つ京へのぼる青田かな

長谷川櫂 「松島」

清水(しみず、しみづ) 三夏

【子季語】

真清水、山清水、岩清水、底清水、苔清水、草清水、清水汲む、清水掬ぶ、清水茶屋

【解説】

岩陰から天然に走りでる水や、流れる水、湛えられた水。また地下から湧き出てくる清冽な水をいう。 清水のある場所やその状態により山清水、岩清水、草清水、苔清水などという。

【例句】

城跡や古井の清水まず問はん 

芭蕉  「真蹟懐紙」

湯をむすぶちかひもおなじ石清水

芭蕉  「陸奥鵆」

底清水心の塵ぞしづみつつ

嵐雪  「玄峰集」

月山や鍛冶が跡とふ雪清水

曾良  「雪まろげ」

青あをと見えて底根のある清水 

千代女 「千代尼尺牘」

石工の鑿冷し置く清水かな

蕪村  「果報冠者」

あとざまに小魚流るる清水かな 

几董  「普明集二稿」

底見えて小魚も住まぬ清水哉

正岡子規 「子規全集」

岩つかみ片手に結ぶ清水哉

正岡子規 「子規全集」

底の石動いて見ゆる清水かな

夏目漱石 「漱石俳句集」

岩清水十戸の村の筧かな

夏目漱石  「漱石俳句集」

滴り(したたり) 三夏

【解説】

山の日陰の道などの岩や苔を細く糸のように伝い落ちる水をいう。山道へ分け入り、しだいに疲れを覚えた身にはそれは玉の如き水。思わず手に受けて頂いたりする。

【例句】

笠一つしたゝる山の中を行く

正岡子規 「子規句集」

海の上に大滴りの岩懸くる

田村木国 「山行」

滴りのはげしく幽けきところかな

日野草城 「昨日の花」

絶壁の蔦を傳ひて滴りぬ

青木月斗 (同人)

岩襖どこよりとなく滴れる

長谷川櫂 「初雁」

滝(たき) 三夏

【子季語】

瀑布、飛瀑、滝壺、滝しぶき、滝風、滝の音、男滝、女滝、滝見、滝涼し、滝道、滝見茶屋

年中滝はあるが涼気から夏の季語とされた。人工的に庭園などに作られたものを作り滝という。季語として認められたのは近代以降である。江戸期は別の季の詞を必要とした。

【例句】

奥や滝雲に涼しき谷の声

其角 「新山家」

うら見せて涼しき瀧の心哉

芭蕉 「宗祇戻」

酒のみに語らんかゝる瀧の花

芭蕉 「笈の小文」

滝水の中やながるる蝉の声

惟然 「草庵集」

山鳥の尾上に滝の女夫かな

几董 「井華集」

神にませばまこと美はし那智の滝

高浜虚子「五百句」

滝をのぞく背をはなれゐる命かな

原石鼎 「原石鼎全句集」

滝殿に人あるさまや灯一つ

内藤鳴雪 「春夏秋冬」

たのしさとさびしさ隣る滝の音

飯田龍太 「山の木」

羽衣のごとくに滝の吹かれをり

長谷川櫂 「虚空」

瀧の影瀧におくれて落ちにけり

高田正子 「花実」

夢に聴くいづこの山の瀧の音

高田正子 「花実」

端午(たんご) 初夏

【子季語】

端午の節句、重五、五月の節句、菖蒲の節句、菖蒲の節会、初節句、菖蒲の日

【解説】

旧暦の月の端(はじめ)の午(うま)の日の意。現代では多くは新暦の五月五日に祝う。邪気を払うといわれる菖蒲や蓬を軒に吊るしたり、菖蒲湯に入ったりする。又、「菖蒲」と「尚武」の読みから、近世以降は男子の節句となった。

【例句】

風さけて入り日涼しき菖蒲の日 

千代女 「真蹟」

四辻や匂ひ吹きみつあやめの日

闌更  「半化坊発句集」

孫六が太刀の銘きる端午かな 

鳳朗  「鳳朗発句集」

コズミックホリステック医療 俳句療法

吾であり・宇宙である☆和して同せず☆競争ではなく共生を☆

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