樽本高壽/五島高資

岩手県立千厩病院. 血液内科長・総合診療内科病棟長


019年のノーベル医学生理学賞を受賞したグレッグ・セメンザ氏は、かつて酸素濃度センサー研究分野でのライバル的存在でした。今回のご受賞を心よりお祝い申し上げます。

セメンザが発見したHIFの低酸素応答作用に対して、私はGATA2がその働きを阻害することを解明しました。そこで、腎性貧血においては、尿毒素のNG-monomethyl-l-arginineが増加することによって活性化されたGATA2がHIFの作用を阻害しエリスロポエチン(造血因子)産生を抑制することがその病因であることを示しました。そこで、l-arginineを投与することによって、NG-monomethyl-l-arginineによるGATA2活性を抑制し、HIFを介したエリスロポエチン産生を回復させる腎性貧血治療法を開発したことを懐かしく思い出します。なお、HIFの低酸素応答作用は、癌治療に応用することもできます。今後の展開を大いに期待するところです。

http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/yd/erythrocyte.html?fbclid=IwAR1wr2aMTjma7iauzMrzdtrVNq4XP6rSWUVOmDH3AqxuIpCo8SCiVr6tAeA 

赤血球分化

概略

私たちの身体は約 60 兆個の細胞からできています。現在の世界の人口が70億人ですから、その10000 倍程度です。あまり想像はつきませんが、とにかくたくさんの細胞が集まって私たちの身体はできているということになります。この一つ一つが大切な役割を持っています。例えば、筋肉細胞は収縮性のある細胞でATPを使って身体を動かしています。神経細胞は細胞間の情報伝達を行っています。このように、細胞にはそれぞれ役割があり、人間ではその役割によって約 270 種類に分けられます。

 細胞の「分化」とは、それぞれの細胞がなにかしらの役割を持つことを言います。筋肉になる細胞は筋肉になるための、神経になる細胞は神経になるための機能を持たなくてはいけません。細胞がそれぞれの役割を持つことを「分化」といい、「神経細胞に分化した」などのように使います。

 私たちは、造血幹細胞が赤血球に分化する過程でなぜアミノ酸の一つのアルギニンが必要なのかを調べています。

 造血幹細胞は血球系の細胞に分化が可能な細胞であり、条件によって赤血球、白血球、血小板や、肥満細胞などを生み出します。日本大学医学部 相澤 信教授らは造血幹細胞がアルギニンの無い状態では赤血球に分化できないことを発見しました。私たちは、なぜ赤血球への分化にアルギニンが必要なのかをDNAマイクロアレイや Real-Time PCR など遺伝子プロファイリング技術を駆使して解き明かそうとしています。

研究内容

CD34 陽性造血幹細胞はサイトカイン存在下でエリスロポエチン (EPO) を添加すると赤血球へ分化することが知られています。日本大学医学部 相澤 信教授らは 20 種類のアミノ酸のうち一つを抜いた培地を作成し、その培地に EPO を添加した時の赤血球への分化誘導を観察しました。その結果、アルギニンを抜いた培地では、赤血球への分化率が顕著に低いことが発見されました (Shima Y. et al., 2006)。このことから、赤血球への分化にはアルギニンに依存した経路があると考えられました。実際に、アルギニンを経口投与することでヘモグロビンが増加するという報告があり、アルギニンと赤血球分化の関連は深いと考えられます(Imagawa S. et al, 2004, Tarumoto T. et al, 2007)。

 我々は通常の条件で赤血球への分化誘導をかけた細胞と、アルギニンを抜いた培地で分化誘導をかけた細胞から RNA を精製し、マイクロアレイを用いてその発現パターンを解析しました。解析の結果、遺伝子発現量に顕著に変化があるものについて赤血球分化のモデル細胞である K562 cell を用いて、分化誘導後の発現量について継時的に変化を調べています。

 この研究によって赤血球分化の複雑な遺伝子発現制御ネットワークにおいてのアルギニンの役割が明らかになることで、貧血の治療法の開発や造血幹細胞を用いた再生医療の研究が飛躍的に進む可能性があり、本研究の意義は大きいと考えられます。

研究論文

Shima Y, Maeda T, Aizawa S, Tsuboi I, Kobayashi D, Kato R and Tamai I.

l-arginine import via cationic amino acid transporter CAT1 is essential for both differentiation and proliferation of erythrocytes.

Blood, doi:10.1182, 107: 1352-1356, 2006.

Imagawa S, Tarumoto T, Kobayashi M and Ozawa K.

L-arginine Administration Reverses Anemia of Renal Disease.

Blood, 104: Abstract 1631, 2004.

Tarumoto T, Imagawa S, Kobayashi M, Hirayama A, Ozawa K, Nagasawa T.

L-Arginine Administration Reverses Anemia Associated with Renal Disease.

International Journal of HEMATOLOGY, 86: 126-129, 2007.

私も共著者として執筆させて頂きました。

American Society of Hematology Self-assessment Program First - Third Editionに腎性貧血発症機序を解明した研究の一つとして拙論 : Tarumoto T, Imagawa S, Ohmine K, Nagai T, Higuchi M, Imai N, Suzuki N, Yamamoto M, Ozawa K.N(G)-monomethyl-L-arginine inhibits erythropoietin gene expression by stimulating GATA-2.Blood. 2000 Sep 1;96(5):1716-22. が引用されました。


小澤敬也教授 東京大学医科学研究所 附属病院長 退官記念懇親会

恩師・小澤先生には、長きに亘り格別なるご厚情を賜り心より御礼申し上げます。不肖の弟子にも関わらず、お誘い頂き大変光栄でした。ちなみに医科学研究所があるところは江戸時代に五島藩上屋敷があった場所で何かのご縁を感じました。深謝まで。ー 場所: 東京大学医科学研究所附属病院

白井 量久

2014年6月21日 21:00 ·

桑田君カメラで撮影の自治医大16期同窓会立位(一部座位)ほぼ正面像ー 一緒にいる人: 増野 純二、手塚 憲志、桑田 吉峰、砂川 浩、金敷博文、竹原有史、瑞木亨、長野 真、堀井学、吉田淳、松村 福広、冨田宗貴、東谷 信宏、石田 岳史、田中 計、穐吉 秀隆、髙橋治樹、嵯峨泰、堤本 高宏、翁家国、江口和男、五島高資、後藤敏之、岡本秀樹、松井圭司、中島 嘉之、東高弘、歌田浩二、豊泉博史、黒川真輔、本多 英喜、佐伯 公三、森脇 俊、花本俊介、Sugi Norito、東澤 俊彦、的場康平、下郷 司、渡邉英明、渡邊冬嗣、早坂 信哉、三枝修、赤坂真奈美、宮良 忠、岡本静子、新井 昇、森實 岳史、北條奈美 場所: 品川プリンスホテル メインタ

樽本高壽

2016年5月13日 ·

佐野市民病院 特別講演会のお知らせ!!

 今回は「臨床医が考える『この国のかたち』」と題して矢作直樹先生の特別講演が開催されます。10年前の講演会では「佐野の文化遺産」「古代の医療」について私が二回ほど講演させて頂いたことを懐かしく思い出しました。昨日、院長、矢作先生のリハーサルが行われ、その後、三人で佐野市の史跡や僻地診療所などを巡り、とても楽しく有意義な一泊二日でした。ちなみに三人とも申年だったのは奇遇でした。深謝まで!!

2019年8月3日 ·

城見ヶ丘大学で熱中症のお話しをしました。ー 場所: 城見ヶ丘大学


http://www.ncvc.go.jp/res/divisions/molecular_innovation_in_lipidology/10-theme02.html

【循環器疾患に対する核酸医薬を用いた新しい治療法の開発】


https://www.chem-station.com/blog/2012/04/rna-1.html

【核酸医薬の物語2「アンチセンス核酸とRNA干渉薬」】




コズミックホリステック医療 俳句療法

吾であり・宇宙である☆和して同せず☆競争ではなく共生を☆

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