https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202006/565932.html 【ヒドロキシクロロキン、イベルメクチンとCOVID-19が関係する論文が取り下げ】 2020/06/07 より
2020年6月4日、LancetとThe New England Journal of Medicineが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する論文を相次いで撤回した。医療情報分析会社であるSurgisphere社が提供するデータを用いて解析していた論文で、そのデータの信ぴょう性が疑われたことから取り下げとなった。今後のCOVID-19の研究に混乱を来す可能性があるのと同時に、「COVID-19まん延下で論文の査読が甘くなっているのではないか」というかねての指摘が実証された形だ。
取り下げられたのは、いずれも米国Harvard大学医学部のMandeep R. Mehra氏が筆頭著者として執筆した論文。Lancetの論文はCOVID-19患者へのクロロキンやヒドロキシクロロキン投与について、これらの薬を投与された患者の死亡率減少効果が見られず、心室性不整脈のリスクは有意に増加していたというもの(関連記事:クロロキンはCOVID-19の治療に役立たない?)。また、NEJMではACE阻害薬やARBのCOVID-19患者への影響について、心血管疾患の既往は院内死亡率の増加と関連があったが、治療薬の使用は死亡率増加と関連が見られなかったと報告していた(関連記事:降圧薬はCOVID-19患者の死亡率を増やさない)。この2本以外にも、Surgisphere社のデータを活用した論文としてCOVID-19患者に対してイベルメクチン投与の有効性をまとめた論文などがあり、プレプリント(査読前論文)として公開されていたが取り下げられていた。
Lancetに掲載された論文を受け、WHOは5月25日にヒドロキシクロロキンの臨床試験の中止を勧告。だが、28日に複数の研究者より公開質問状が出された他、オーストラリアのガーディアン紙が、論文中のCOVID-19によるオーストラリア人の死亡数が、これまで公表されていた死亡者数よりも多かったことを指摘。データに関連する病院を取材したところ、Surgisphere社との関連を否定したと報じている。また、6月2日にはNEJMの論文に対しても研究者らによる公開質問状が提示された。
Surgisphere社は2008年に設立された米国の医療に関するデータを提供する会社で、2億4000万件以上の電子カルテから収集した情報を有しているとしている。Lancetの論文の問題についてSurgisphere社は、「アジアに割り当てるべきデータをオーストラリアに割り付けてしまったが、それによって結果には影響はない」とし、NEJMやLancetによる第三者による監査を受け入れる旨をウェブサイト上に記している。だが、Mehra氏らは6月4日、「論文著者が未公開データにアクセスできず、第三者が監査を行えない」として論文を撤回した。
これを受けて、WHO事務局長のTedros氏は6月3日の記者会見で、COVID-19患者に対するヒドロキシクロロキンの臨床試験を再開することを明らかにしている。また、イベルメクチンについては、COVID-19患者に投与した論文は、取り下げられたプレプリントのものしか知られていない。ただ、イベルメクチンの医師主導治験を予定している北里研究所では、「学内でもin vitroで有効性を確認している」(総務部広報課)として、引き続き治験開始に向けて当局との相談を続けていく考えだ。
https://www.asahi.com/articles/ASN666J71N66UHBI003.html 【トランプ氏服用薬、オックスフォード大「コロナには…」】 より
会員記事 新型コロナウイルス ロンドン=下司佳代子 2020年6月6日 20時39分
新型コロナウイルスの治療薬候補として期待されていた抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」について、英オックスフォード大は5日、臨床試験(治験)の結果、効果は確認されなかったと発表した。この薬をめぐっては、安全性や有効性が確認される前にトランプ米大統領が予防的に服用していると明かし波紋を呼んでいた。
同大の発表によると、英国の病院に入院している新型コロナウイルスの患者1542人にヒドロキシクロロキンを投与し、通常の治療のみを受けた3132人と比較した。その結果、28日後の死亡率は前者が25・7%、後者が23・5%で有意な差はみられなかった。入院期間の長さなどを比べても、有益な効果を示す結果は得られなかった。
ヒドロキシクロロキンをめぐっ
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20200606-00000058-nnn-int
【マラリア薬コロナ患者のリスク増…論文撤回】 6/6(土) 1:55配信
先月、イギリスの医学誌に抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」を、新型コロナウイルスの患者に投与した場合、死亡リスクを高めるなどとする研究論文が掲載されましたが、4日、執筆者がこの論文を撤回しました。
撤回された論文は先月イギリスの医学誌「ランセット」が掲載したものです。「投与された患者は死亡リスクが高まる」とする調査結果が掲載された抗マラリア薬の「ヒドロキシクロロキン」は、アメリカのトランプ大統領が新型コロナウイルスの治療薬として推奨していました。
しかし、その後、分析結果に疑問の声が寄せられたため、外部によるデータの検証を行おうとしたところ、データを所有する医療関連企業が「第三者への提供を拒否した」ということです。
これを受け、「データの信頼性を保証することができない」として、執筆者自らが論文を撤回しました。
https://www.afpbb.com/articles/-/3269184 【中国科学技術部、新型肺炎に対するリン酸クロロキンの有効性を確認】
2020年2月20日 11:39 発信地:中国 [ 中国 中国・台湾 ]
【2月20日 Xinhua News】中国科学技術部生物センターの孫燕栄(Sun Yanrong)副主任は17日、国務院合同予防抑制メカニズムの記者会見で、抗マラリア薬の一種「リン酸クロロキン」が新型コロナウイルスによる肺炎の治療に一定の効果を発揮したことを確認したと述べた。専門家はリン酸クロロキンを早急に診療ガイドラインの新版に組み入れるべきとの認識で一致した。
孫氏によると、北京市や広東省(Guagdong)、湖南省(Hunan)など複数の省にある十数カ所の病院が共同で、新型肺炎の治療に対するリン酸クロロキンの安全性と有効性の評価を実施し、臨床面で非常に明確な治療効果を示した。重症化率や解熱、肺野画像の好転時間、ウイルス核酸の陰性化に要する時間および陰性化率、疾患の経過短縮など一連の指標を系統的かつ総合的に研究・判断した結果、リン酸クロロキンを投与したグループは対照群よりも優れていることが明らかになった。安全性に関しては、投与した患者100人余りで薬剤に関連したはっきりした深刻な副作用は見つかっていない。
これらの研究結果に基づき、科学技術部と国家衛生健康委員会、国家薬品監督管理局など科学研究グループの主要構成機関は、15日に共同で専門家会議を招集。専門家グループは最終的に「リン酸クロロキンは市場で長年使用されてきた薬であり、幅広い人々の治療に用いる場合も安全性のコントロールが可能と考える。初期の臨床機関が実施した研究結果に基づき、リン酸クロロキンが新型肺炎の治療に一定の効果をもつことは明らかだ」との見解で一致した。当面の臨床治療の切迫した需要に基づき、専門家は「早急にリン酸クロロキンを新版の診療ガイドラインに組み入れ、臨床試験の範囲を拡大すべきだ」と全会一致で推奨した。孫氏は「以前からある薬の新たに活用するという考えに期待している。70年間使われてきた薬が今回の新型肺炎との闘いで新たな素晴らしい効果を発揮することを願っている」と語った。
16日までに計136件の新型肺炎に関する研究が臨床試験に投入され、中でもファビピラビル、リン酸クロロキン、レムデシビルの3種類の薬剤に注目が集まっている。ファビピラビルは既に国家薬品監督管理局から正式に発売を承認されている。
リン酸クロロキンは長年市場に出回っている抗マラリア薬の一種で、公開情報によると、クロロキンはエンドソームのpHを変化させることができるため、ボルナ病ウイルスやトリ白血病ウイルス、ジカウイルスなど、エンドソーム経路を介して細胞に侵入するウイルス感染に対し、明らかな阻害作用を発揮する。(c)Xinhua News/AFPBB News
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/ 【新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】(6月5日UPDATE)】 より
治療薬
開発中のCOVID-19治療薬は、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬と、重症化によって生じる「サイトカインストーム」や「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」を改善する薬剤に分けられます。いずれも既存薬を転用するアプローチが先行していますが、COVID-19向けに新たな薬剤を開発する動きもあります。
厚生労働省は5月12日、COVID-19に対する医薬品・医療機器・体外診断用医薬品・再生医療等製品について、公的な研究事業の成果で一定の有効性・安全性が確認されている場合には、治験結果を待たずに承認申請することも可能だとする通知を出しました。「新型コロナウイルス感染症に対する医薬品等は、最優先で審査を行う」としており、治療薬を早期に実用化する考えです。
一方、日本医師会の「COVID-19有識者会議」は5月17日、「承認を早めるための事務手続き的な特例処置は理解できる」としながらも、「有事といえども科学的根拠の不十分な候補薬を治療薬として承認すべきでないことは明らか」とする声明を発表。COVID-19治療薬の開発には、適切なコントロール群を置いたランダム化比較試験が必須だとし、「臨床試験による十分な科学的エビデンスに基づいて承認すべきだ」と指摘しています。
抗ウイルス薬
現在、COVID-19に対する抗ウイルス薬の候補として国内外で臨床試験・臨床研究が行われているのは、▽レムデシビル(米ギリアド・サイエンシズ)▽ファビピラビル(富士フイルム富山化学の「アビガン」)▽ロピナビル/リトナビル(米アッヴィの「カレトラ」)▽ヒドロキシクロロキン(仏サノフィの「プラケニル」)▽シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)――など。急性膵炎治療薬ナファモスタット(日医工の「フサン」)や同カモスタット(小野薬品工業の「フオイパン」)なども候補に挙がっています。
【COVID-19に対する抗ウイルス薬として候補に挙がっている主な薬剤】(★はCOVID-19の治療薬として日本で承認された薬剤)(一般名/販売名(先発品)/社名/薬効/対象疾患): ★レムデシビル/ベクルリー/ギリアド/抗ウイルス薬/エボラ出血熱* |ファビピラビル/アビガン/富士フイルム富山化学/抗ウイルス薬/新型・再興インフルエンザ感染症 |ロピナビル/リトナビル/カレトラ/アッヴィ/抗ウイルス薬/HIV感染症 |シクレソニド/オルベスコ/帝人ファーマ/ステロイド/気管支喘息 |クロロキン/国内未承認/―/抗炎症薬/マラリア |ヒドロキシ/プラケニル/サノフィ/抗炎症薬/全身性エリテマ |クロロキン/トーデスなど |ナファモスタット/フサン/日医工など/タンパク分解酵素阻害薬/急性膵炎など |カモスタット/フオイパン/小野薬品工業など/タンパク分解酵素阻害薬/急性膵炎など |イベルメクチン/ストロメク/MSD/マルホ/駆虫薬/腸管糞線虫症など |*は開発中の疾患。臨床試験登録サイトに掲載されている情報やWHO(世界保健機関)の情報、企業の発表情報などをもとに作成
厚生労働省は5月7日、レムデシビル(製品名・ベクルリー)を新型コロナウイルス感染症に対する国内初の治療薬として承認しました。米国ではFDA(食品医薬品局)が5月1日に緊急的な使用を許可しており、日本でもこれを受けて特例承認を適用。同月4日の承認申請から3日でのスピード承認となりました。
ベクルリーは重症患者が対象で、症状に応じて10日間または5日間投与します。厚労省は、レムデシビルの日本への供給量が限定的なものとなる可能性があると見ており、重症患者の受け入れ状況に応じて国が医療機関への配分を管理しています。
レムデシビル(米ギリアド)
レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性を示すことが明らかになっており、COVID-19の治療薬として最も有望視されている薬剤の1つです。
米FDA(食品医薬品局)は5月1日、レムデシビルについて、COVID-19の重症入院患者を対象に緊急時使用許可を与えました。許可の根拠となったのは、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導で中等症から重症の患者を対象に行われた臨床第3相(P3)試験と、ギリアドが行っている重症患者対象のP3試験。NIAID主導の試験では、回復までの期間をプラセボに比べて31%早めることが示され(レムデシビル群11日、プラセボ群15日)、死亡率も有意差はつかなかったものの改善傾向が示されました(レムデシビル群8.0%、プラセボ群11.6%)。
日本では、FDAによる使用許可を受けて特例承認を適用する方針が示され、ギリアドが5月4日に承認申請。同7日に開かれた厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会が特例承認を了承し、厚労省は即日承認しました。
【ベクルリー(レムデシビル)の概要】 販売名/ベクルリー点滴静注液100mg/同点滴静注用100mg |一般名/レムデシビル |作用機序/RNAポリメラーゼ阻害薬/ |適応/SARS-CoV-2による感染症臨床試験等における主な投与経験を踏まえ、現時点では原則として、酸素飽和度94%(室内気)以下、または酸素吸入を要する、または体外式膜型人工肺(ECMO)導入、または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者を対象に投与を行うこと。 |用法・用量/成人および体重40kg以上の小児には、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。体重3.5kg以上40kg未満の小児には、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。総投与期間は10日までとする。/ |重大な副作用/急性腎障害、肝機能障害、Infusion Reaction |申請/承認/2020年5月4日/2020年5月7日(特例承認) |製造販売元/ギリアド・サイエンシズ |※ベクルリーの添付文書をもとに作成
ギリアドは2本のP3試験を行っており、4月末に公表された重症患者対象の試験の主要結果(対象患者約6000人のうち397人分の解析結果)では、5日間の投与で10日間投与と同等の効果が得られる可能性が示されました。中等症患者1600人を対象としたもう1本の試験は、6月1日に初期の結果(584人分の解析結果)が発表。レムデシビルを5日間投与した患者は、標準治療のみの患者に比べて投与11日目に臨床症状の改善が見られた患者の割合が有意に高かった一方、10日間投与した患者と標準治療のみの患者では有意差はありませんでした。
ファビピラビル(富士フイルム富山化学)
ファビピラビルは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、新型インフルエンザに備えて国が備蓄しています。
ファビピラビルは、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制する薬剤。COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、効果を示す可能性があると期待されています。ただし、動物実験で催奇形性が確認されているため、妊婦や妊娠している可能性がある人には使うことができず、妊娠する可能性がある場合は男女ともに避妊を確実に行う必要があります。
日本では、富士フイルム富山化学が3月にCOVID-19を対象にP3試験を開始。臨床試験登録サイトに掲載されている情報によると、対象は重篤でない肺炎を発症したCOVID-19患者約100人で、肺炎の標準治療にファビピラビルを追加した場合の効果を検証しています。米国でも4月からP2試験が進行中です。
藤田医科大は5月26日、COVID-19患者にファビピラビルを投与した観察研究の中間報告(同月15日現在)を日本感染症学会のホームページで公開しました。観察研究には同日時点で全国407医療機関から2158人の患者が登録。中間報告では「軽症患者に投与された場合にはほとんどが回復している一方、重症患者では治療経過が思わしくないことも多いことが読み取れる」としていますが、比較試験ではなく、COVID-19は軽症のまま自然に治ることも多いことから、「慎重に結果を解釈することが必要だ」としています。
シクレソニド(帝人ファーマ)
シクレソニドは、日本では2007年に気管支喘息治療薬として承認された吸入ステロイド薬。国立感染症研究所による実験で強いウイルス活性を持つことが示され、実際に患者に投与したところ肺炎が改善した症例も報告されています。
国内では、無症候または軽症のCOVID-19患者を対象に、対症療法と肺炎の発症または増悪の割合を比較する多施設共同の臨床試験が国立国際医療研究センターを中心に行われています。
ロピナビル/リトナビル配合剤(米アッヴィ)
ロピナビルはウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬で、リトナビルはその血中濃度を保ち、効果を増強する役割を果たします。これらの配合剤であるカレトラは、日本では2000年にHIV感染症に対する治療薬として承認されています。
In vitroや動物モデルを使った研究でMERSへの有効性が示されており、COVID-19に対してもバーチャルスクリーニングで有効である可能性が示唆されました。CrinicalTrials.govによると、中国を中心にCOVID-19患者を対象とした臨床試験が複数行われていますが、中国の研究グループは3月18日付のNEJMに、カレトラを投与しない群と比べて臨床的な改善までの時間に差はなかったとの結果を発表しました。
その他
抗マラリア薬クロロキンや皮膚エリテマトーデス/全身性エリテマトーデス治療薬ヒドロキシクロロキンも欧米を中心に多くの臨床試験が行われており、国内でも群馬大でロピナビル、リトナビル、ヒドロキシクロロキンの3剤併用療法の臨床研究が進行中。ただし、海外ではヒドロキシクロロキンを投与されたCOVID-19患者で心臓の副作用が相次いで報告されており、日本でもサノフィが注意を呼びかけています。
タンパク分解酵素阻害薬ナファモスタットや同カモスタットは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとされ、日本では東京大付属病院などでファビピラビルとナファモスタットの併用療法を検討する臨床研究が進行中。一方、カモスタットを製造販売する小野薬品は「臨床試験の開始について検討するとともに、国内外の医療機関・研究機関からの要請に基づき臨床研究用製剤を供給すべく準備中」としています。
重症患者に対する治療薬
COVID-19が重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応に重篤な臓器障害を起こしたり、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という重度の呼吸不全を起こしたりすることが知られています。
こうした重症患者に対する治療薬としては、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の働きを抑える抗体医薬や、サイトカインによる刺激を伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤が候補に挙げられています。
【COVID-19による重症肺炎や急性呼吸窮迫症候群の治療薬として候補に挙がっている主な薬剤】 (一般名/販売名/社名/作用機序/対象疾患): トシリズマブ/アクテムラ/中外製薬/スイス・ロシュ/抗IL-6R抗体/関節リウマチなど|サリルマブ/ケブザラ/仏サノフィ/米リジェネロン/抗IL-6R抗体/関節リウマチ |トファシチニブ/ゼルヤンツ/米ファイザー/JAK阻害薬/関節リウマチなど |バリシチニブ/オルミエント/米イーライリリー/JAK阻害薬/関節リウマチ |ルキソリチニブ/ジャカビ/スイス・ノバルティス/JAK阻害薬/骨髄線維症など |アカラブルチニブ/国内未承認/英アストラゼネカ/BTK阻害薬/白血病 |ラブリズマブ/ユルトミリス/米アレクシオン/抗補体(C5)抗体/発作性夜間ヘモグロビン尿症 |エリトラン/未承認/エーザイ/TLR4拮抗薬/重症敗血症*(開発中止) |イブジラスト/(ケタス)/米メディシノバ/PDE阻害薬/多発性硬化症など* |HLCM051/未承認/ヘリオス/米アサシス/体性幹細胞/脳梗塞など* |LY3127804/未承認/米イーライリリー/抗Ang2抗体/がんなど* |*は開発中の疾患。臨床試験登録サイトに掲載されている情報やWHO(世界保健機関)/の情報、企業の発表情報などをもとに作成
抗IL-6受容体抗体/JAK阻害薬
スイス・ロシュは4月から、中外製薬が創製した抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(製品名「アクテムラ」)のP3試験を米国、カナダ、欧州などで開始。レムデシビルとの併用療法を評価するP3試験も近く始まる予定です。国内では中外がP3試験を始めており、年内の承認申請を目指しています。米リジェネロン・ファーマシューティカルズと仏サノフィも、共同開発した抗IL-6受容体抗体サリルマブ(同「ケブザラ」)のP2/3試験を日本と欧米などで実施中。両剤はいずれも、日本で主に関節リウマチの治療薬として使われています。
JAK阻害薬では、関節リウマチ治療薬バリシチニブ(米イーライリリーの「オルミエント」)が米NIAID主導のアダプティブデザイン試験の一部として臨床試験を開始。試験は今後、欧州やアジアなどの施設にも拡大される予定で、6月ごろに結果が得られる見通しです。日本では、国立国際医療研究センターでレムデシビルとの併用療法を評価する臨床研究が行われています。
JAK阻害薬ではこのほか、トファシチニブ(米ファイザーの「ゼルヤンツ」)も欧州で医師主導臨床試験が行われているほか、スイス・ノバルティスも骨髄線維症などの適応で承認されているルキソリチニブ(製品名「ジャカビ」)のP3試験を準備していることを明らかにしています。
日本新薬は、骨髄線維症を対象に開発中のJAK阻害薬NS-018をCOVID-19による重症肺炎やARDSの治療薬に転用することを検討。同社は、肺動脈性肺高血圧症治療薬セレキシパグ(製品名「ウプトラビ」)をCOVI-D19で生じる血栓症の治療薬として開発することも検討しています。
その他
エーザイは、かつて重症敗血症を対象に開発していたものの、P3試験で主要評価項目を達成できずに開発を中止したTLR4拮抗薬エリトランの国際共同治験を6月に開始する予定。サイトカイン産生の最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害することで、サイトカインストームの抑制を狙います。
米メディシノバは、多発性硬化症などで開発中のイブジラスト(日本では杏林製薬が脳血管障害・気管支喘息改善薬「ケタス」として販売)について、米イェール大と共同でCOVID-19によるARDSを対象とした臨床試験を始めました。米アサシスとヘリオスは体性幹細胞によるCOVID-19由来ARDS治療の臨床試験を日米で行っています。
イーライリリーは、がんなどを対象に開発中の抗アンジオポエチン2(Ang2)抗体LY3127804について、ARDSを発症するリスクの高いCOVID-19入院患者を対象とするP2試験を開始。Ang2はARDSを呈する患者で増加することがわかっており、試験ではAng2を阻害することでARDSの発症や人工呼吸器の使用を減らせるかどうかを検証しています。
英アストラゼネカは海外で白血病治療薬として承認されているBTK(ブルトン型キナーゼ)阻害薬アカラブルチニブの臨床試験を実施中。このほかにも、糖尿病治療薬のSGLT-2阻害薬ダパグリフロジン(製品名「フォシーガ」)について、米セントルーク・ミッドアメリカ・ハートインスティチュートと臓器不全などの重度の合併症を発症する危険性のある患者を対象としたP3試験を行っています。
新規薬剤の開発
既存薬を転用するアプローチで治療薬の開発が進む一方で、新規の薬剤を開発しようとする動きも広がっています。
【COVID-19を対象に新規薬剤を開発している主な企業】(社名/開発中の薬剤): 武田薬品工業/米CSLベーリングなど/免疫グロブリン製剤 |米リジェネロン・ファーマシューティカルズ/抗体医薬 |英グラクソ・スミスクライン//抗体医薬 |米ビル・バイオテクノロジーズ/(VIR-7831/VIR-7832) |米アルナイラム・ファーマシューティカルズ/米ビル・バイオテクノロジーズ/siRNA核酸医薬(VIR-2703〈ALN-COV〉) |米イーライリリー/カナダ・アブセラ/抗体医薬(LY-CoV555) |米イーライリリー/中国ジュンシー・バイオサイエンシズ/抗体医薬 |米メルク/米リッジバック・バイオセラピューティクス/抗体医薬 |米ファイザー/抗ウイルス薬(プロテアーゼ阻害薬) |塩野義製薬/抗ウイルス薬 |※各社の発表をもとに作成
武田薬品工業は4月6日、原因ウイルスSARS-CoV-2に対する高度免疫グロブリン製剤の開発で、米CSLベーリングなど5社と提携すると発表。5月8日には新たに4社が加わり10社による協力体制を構築しました。10社は原料となる血症の採取から臨床試験の企画・実施、製造まで幅広く協力し、ノーブランドの抗SARS-CoV-2高度免疫グロブリン製剤を共同で開発・供給する考え。今夏にも、NIAIDと協力して成人患者を対象としたグローバル試験を始める予定です。
イーライリリーは6月1日、カナダのアブセレラと共同開発しているSARS-CoV-2に対する抗体医薬「LY-CoV555」のP1試験を米国で開始しました。LY-CoV555はCOVID-19の回復者の血液から同定された抗体で、試験結果は6月中に明らかになる見通し。イーライリリーは中国・上海のジュンシー・バイオサイエンシズとも抗体医薬の開発で提携しており、数カ月以内に臨床試験を始める計画です。
米メルクは5月26日、現在P1試験の段階にある抗ウイルス薬「EIDD-2801」の開発で米リッジバック・バイオセラピューティクスと提携したと発表。メルクは全世界での独占的開発・商業化権を取得し、同薬の臨床開発と申請、製造を行います。
リジェネロンはSARS-CoV-2に対する多数の抗体を特定し、このうち2つを混合したカクテル抗体の臨床試験を初夏までに始める方針。米ビル・バイオテクノロジーは2つの抗ウイルス抗体(VIR-7831とVIR-7832)の開発で英グラクソ・スミスクライン(GSK)と提携し、今夏にP2試験を始める予定です。
ビルは米アルナイラム・ファーマシューティカルズと共同でSARS-CoV-2を標的とするsiRNA核酸医薬も開発しており、開発候補として吸入型のsiRNA「VIR-2703(ALN-COV)」を特定。20年末をメドに臨床試験を始める見込みです。今年5月、国産初の核酸医薬となるデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬「ビルテプソ」(ビルトラルセン)を発売した日本新薬も、新型コロナウイルスに対する核酸医薬の開発を検討。バイオベンチャーのボナックもCOVID-19向け核酸医薬の研究を進めています。
ファイザーはSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を示すプロテアーゼ阻害薬候補を特定しており、今年7~9月期にも臨床試験を始める予定です。塩野義製薬も北海道大との共同研究でCOVID-19に対する抗ウイルス薬の候補を特定。今年度中の臨床試験開始を目指して研究を進めています。
ワクチン
感染を予防するワクチンの開発も進んでいます。
WHO(世界保健機関)のまとめによると、現在、臨床試験に入っているCOVID-19ワクチンは、▽英オックスフォード大/英アストラゼネカのウイルスベクターワクチン「ChAdOx1-S/AZD1222」▽米モデルナのmRNAワクチン「mRNA-1237」▽中国カンシノ・バイオロジクス/北京バイオテクノロジー研究所のウイルスベクターワクチン▽米イノビオ・ファーマシューティカルズのDNAワクチン「INO-4800」▽独ビオンテック/米ファイザーのmRNAワクチン「BNT162」▽米ノババックスのナノ粒子ワクチン「NVX‑CoV2373」――など10種類。
オックスフォード大とアストラゼネカのアデノウイルスベクターを使ったワクチンは、英国で5月下旬からP2/3試験に入りました。モデルナのmRNA-1237もP2試験が始まっており、7月にはP3試験を始める予定です。
【COVID-19向けワクチンを開発している主な企業・研究機関】(社名/開発状況): 英オックスフォード大/英アストラゼネカ/ウイルスベクターワクチン「ChAdOx1-S/AZD1222」。P2/3試験を英国で実施中 |中国カンシノ・バイオロジクス/北京バイオテクノロジー研究所/ウイルスベクターワクチン。P2試験を中国で実施中 |米モデルナ/mRNAワクチン「mRNA-1237」。P2試験を米国で実施中。7月からP3へ |北京生物製品研究所/武漢生物製品研究所/不活化ワクチン。P1/2試験を中国で実施中 |中国シノバック・バイオテック/不活化ワクチン。P1/2試験を中国で実施中 |米ノババックス/組換えタンパクワクチン「NVX-CoV2373」。P1/2試験を実施中 |独ビオンテック/米ファイザー/mRNAワクチン「BNT162」。P1/2試験を欧米で実施中 |米イノビオ・ファーマシューティカルズ/DNAワクチン「INO-4800」。P1試験を米国で実施中 |仏サノフィ/英グラクソ・スミスクライン/今年後半にP1試験開始予定 |米ジョンソン・エンド・ジョンソン/ウイルスベクターワクチンを開発。9月までにP1試験開始予定 |米メルク/2種類のワクチンを開発。いずれも今年後半に臨床試験を開始予定 |仏サノフィ/米トランスレート・バイオ/mRNAワクチンを開発 |英グラクソ・スミスクライン/米ビル・バイオテクノロジーズ/― |アンジェス/大阪大/DNAワクチンを開発。最短で7月の臨床試験開始を予定 |田辺三菱製薬(子会社のカナダ・メディカゴ)/植物由来VLPワクチンを開発。8月までに臨床試験開始予定 |塩野義製薬(子会社UMNファーマ)/組換えタンパクワクチンを開発。年内に臨床試験開始予定 |IDファーマ/ウイルスベクターワクチンを開発。最短で9月の臨床試験開始を予定 |KMバイオロジクス/不活化ワクチンを開発。年度内の非臨床試験終了が目標 |※WHO(世界保健機関)や厚生労働省の情報、各社の発表情報などをもとに作成
米メルクは5月26日、オーストリアのテミスを買収し、COVID-19ワクチンの開発に乗り出すと発表しました。買収で獲得するのは、麻疹ウイルスベクターを使ったワクチンで、今年後半に臨床試験を開始する予定。メルクは非営利国際組織「国際エイズワクチン推進機構」(IAVI)とも協業し、IAVIが開発中のCOVID-19ワクチンの実用化を共同で進めます。こちらのワクチンも今年後半に臨床試験に入る予定です。
サノフィとグラクソ・スミスクラインは、共同開発中のワクチンについて今年後半にP1試験を開始し、来年後半に開発を完了させることを目指しています。両社のワクチンは、サノフィの組み換えDNA技術に基づくSタンパク質抗原とGSKのアジュバントを組み合わせたもの。サノフィは米トランスレート・バイオともmRNAワクチンの開発で提携しており、GSKも抗ウイルス抗の開発で提携するビル・バイオテクノロジーズとワクチン開発でも協力しています。
アンジェス、田辺三菱、塩野義が開発
日本企業では、アンジェスと大阪大がDNAワクチンを共同で開発中。タカラバイオが製造面で協力し、化学大手のダイセルが有効性を高めるための新規投与デバイス技術を提供。現在は非臨床試験を実施中で、最短で7月の臨床試験開始を目指しています。
田辺三菱製薬もワクチン開発に乗り出しています。カナダ子会社のメディカゴが植物由来ウイルス様粒子を使ったCOVID-19向けワクチンを開発中。非臨床試験の中間結果で良好な結果が得られたことを明らかにしており、8月までに臨床試験を開始するために規制当局と協議しています。順調に進めば、臨床試験は来年11月に終了する予定です。
塩野義製薬は、グループ会社のUMNファーマが日本医療研究開発機構(AMED)の事業に参画して組み換えタンパク抗原の作製を進めており、年内の臨床試験開始に向けて厚生労働省などと協議を進めています。
KMバイオロジクスも不活化ワクチンの開発に着手しており、年度内の非臨床試験終了が目標。アイロムグループのIDファーマはセンダイウイルスベクターを使ったワクチンを開発中で、9月にも臨床試験を開始する考えです。
(前田雄樹)
(公開日:2020年2月28日/最終更新日:2020年6月5日
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