https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG0500R_V00C14A8CC0000/ 【理研・笹井氏が自殺 関係者あてに複数の遺書STAP論文の指導役】2014/8/5付
5日午前8時40分ごろ、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市、CDB)の笹井芳樹副センター長(52)がCDBに隣接する先端医療センター内で首をつっているのを関係者が見つけ、110番した。兵庫県警によると、笹井氏は病院に搬送されたが、午前11時すぎに死亡が確認された。自殺とみられる。
笹井氏は傷ついた臓器や組織を治療する再生医療研究の第一人者。STAP細胞論文の共著者の一人で、同センターの小保方晴子研究ユニットリーダー(30)の指導役を務めた。論文の不正では未解明の部分も多く、笹井氏の自殺によって究明はいっそう難しくなるとみられる。
県警によると、笹井氏は先端医療センターの研究棟の4~5階の非常階段踊り場の手すりにひも状のものをかけて首をつっていた。捜査関係者によると、笹井氏が首をつっていた現場付近で関係者に宛てた遺書が複数見つかった。
笹井氏は万能細胞の一つであるES細胞(胚性幹細胞)の立体培養を手がけるなど国内外で高い評価を得ていた。京大医学部では最年少の36歳で教授に就任するなど若い頃から再生医療分野でエースといわれていた。
STAP細胞を巡っては、実験の一部にかかわったほか、論文の執筆や構成を手がけた。論文の研究不正を認定した理研の報告書では、笹井氏の責任は重大であるとして処分を求めた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20140216-00032704/
【STAP細胞とiPS細胞の比較報道は誤り 山中教授「影響非常に大きい」】
楊井人文 | FIJ事務局長・InFact共同編集長・弁護士2014/2/16(日) より
先月末、世界を駆け巡り、日本中を沸かせた、理化学研究所チームによる新万能細胞「STAP細胞」作製成功のニュース。メディアは、万能細胞の”先輩格”である「iPS細胞」(人工多能性幹細胞)との”わかりやすい比較”を通じて「快挙」を解説した。いわく「iPS細胞より安全」「iPS細胞にはガン化のリスクがあるが、STAP細胞にはない」「iPS細胞より作製が簡易で早い」「作製効率(元の細胞からiPS細胞を作りだす成功率)も、iPS細胞は0.1%と低いが、STAP細胞は高い」ー新聞やテレビで、こんな解説を目にし、耳にしたことのある人は多いはずだ。
ところが、これは「誤った比較」だった。なんと、今日の最新の研究成果に基づかず、iPS細胞が初めて作製された8年前(2006年)の初歩的な研究成果と比較されていたというのだ。
「報道を見て本当に心を痛めている」―京都大学の山中伸弥教授=2012年、ノーベル生理学・医学賞受賞=は、2月7日放送のテレビ朝日「報道ステーション」のインタビューで訴えていた。山中教授によると、iPS細胞は2006年以降の研究の積み重ねで、がん化や作製効率の課題を克服し「全く違う新型の細胞になっているといってよい」という。古館伊知郎キャスターは、8年前の成果と比較したことを「反省しなければならない」と率直に述べた。同番組が山中教授の「反論」インタビューを十分時間をとって放送したことは、大変よかったと思う。ただ、一連の大々的な報道で広まった誤解を払しょくすることはそう容易いことではない。始まったばかりの臨床研究への影響が懸念される。インタビューで誤報による「影響は非常に大きい」と語った山中教授は、10日にも記者会見を開き、一連の報道の「3つの誤解」を発表。12日には改めて山中教授の名前で「iPS細胞とSTAP幹細胞に関する考察」との声明を、京都大学iPS細胞研究所のホームページに掲載した。こうした積極的な発信は、「非常に大きな影響」の深刻さと、それに対する山中教授の危機感の現れに違いない。毎日新聞や産経新聞が10日の会見内容を記事化したものの、扱いは大きくなかった。読売新聞も14日付朝刊でホームページの声明を紹介したが、朝日新聞はまだ載せていない(2月16日現在)。
テレビ朝日で7日放送されたインタビュー(動画もホームページで閲覧できる)では、山中教授の思いが率直に、野球のたとえ話も用いながらわかりやすく語られている。
https://news.yahoo.co.jp/byline/akimotoshoji/20140411-00034426/ 【山中伸弥氏:「STAP研究に協力、小保方さん大歓迎」は、2ヶ月前の記事です。】秋元祥治 | 岡崎ビジネスサポートセンター長、NPO法人G-net理事 2014/4/11
なんか、急にこの一日でフェイスブック上で毎日新聞の記事がシェアされまくっています。
iPS細胞の、山中さんの記事。
あらゆる細胞に変化できる万能細胞のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長(51)が7日、大阪市内で毎日新聞の単独取材に応じた。理化学研究所などが開発したと発表した新型万能細胞・STAP(スタップ)細胞(刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得細胞)について「(万能細胞になる)メカニズムはiPS細胞と同じ可能性がある。ノウハウを提供し、協力したい」と話し、共同研究の必要性を強調した。iPS細胞研究所で近く、STAP細胞の作製を試みるという。
出典:毎日新聞(2月8日)
という冒頭から始まり、山中さんの記事は、後半にはこんな言葉が。
同じような立場なので、彼女の苦労が理解できる。彼女を助けてあげたいと本当に思う
この山中さんの発言に「共感した」とか「懐が深い、さすが!」といった賞賛とともにフェイスブックやツイッターなどで広がりを見せているのだ。以下がその部分。
研究の中心になった理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の小保方晴子(おぼかた・はるこ)・研究ユニットリーダー(30)と会ったことはなく、直接話を聞きたいと望んでいるという。「私はiPS細胞を人の治療に役立てたいと、夢を見てここまで来た。彼女は50年、100年先を見据えた、もっとずっと大きな夢を持っているようだ」と評価。「同じような立場なので、彼女の苦労が理解できる。彼女を助けてあげたいと本当に思う」と話し、何度も「我々の研究所に移ってほしい。大歓迎だ」とラブコールを送った。
出典:毎日新聞(2月8日)
と、ところがだ。この記事をもう一度じっくりと見てみると・・・
毎日新聞記事の記事の日付
な、なんと63日前の、2ヶ月も前の記事!
そうなんです、STAP細胞の論文が発表されたのが1月30日付の科学誌ネイチャー。(2014年2月5日、共著者のバカンティ教授のチームがヒトとして初めてのSTAP細胞であるとみられる細胞の写真を公表したとのこと)そして、不自然な画像データが在るとして調査が始まったのは、2月10日過ぎ(理研広報室は14日、外部の専門家も加えて調査を始めたと明らかにしている)
ちなみに、直近の山中さんのコメントはというと
山中さんは、30代後半に自身の研究室を持ちiPS細胞の作製につながった自身の経験にふれ、「30代、場合によっては20代に、独立のチャンス、欧米に匹敵する研究環境、研究費を与えるべきだ」と訴えた。 一方で、「ほったらかしは危険。私もそうだったが、30代の研究者は実験の方法は上手になっているが、様々な点で未熟」と述べ、「シニアの研究者が研究室運営や研究倫理、利益相反などを、独立後も若手研究者に教育するシステムが必要。国単位でやる方がいい」と提案した。
出典:朝日新聞(4月4日)
(朝日新聞4月4日)
https://www.huffingtonpost.jp/shoji-akimoto/2_19_b_5132208.html
山中伸弥氏:「STAP研究に協力、小保方さん大歓迎」は、2ヶ月前の記事です。
詳細を読まずにシェアをしたり、一次情報(出典)を確認せずに拡散するリスク ネットメディアが広がる中で、使う我々のメディアリテラシーが改めて問われる、と思うのです。
秋元 祥治NPO法人G-net代表理事・滋賀大学客員准教授
2014年04月11日 23時45分 JST | 更新 2014年06月11日 18時12分 JST
http://news.line.me/issue/1ab1ef6d/e0efc80c8899 【理研・笹井氏の遺族が遺書概要とコメントを公表】2014年8月12日
https://www.sankei.com/west/news/140818/wst1408180025-n1.html 【【衝撃事件の核心】「必ず再現して、そして新しい人生を」心折れた笹井氏が小保方氏に託した「STAP細胞」】 2014.8.18
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/40262 【笹井芳樹氏を追い込んだ「小保方への愛情」と「山中教授への対抗心」】 2014年8月30日
https://www.sankei.com/life/news/141223/lif1412230011-n1.html 【「生データの保存大切」 山中教授、STAP問題で指摘】 2014.12.23
京都大の山中伸弥教授(52)が22日、産経新聞の単独取材に応じ、理化学研究所の小保方(おぼかた)晴子・元研究員(31)=21日付退職=が検証実験で再現できなかったSTAP細胞の問題について「この騒動から学んだことは、生データの保存の大切さだ」と強調し、不正を防ぐ体制づくりの必要性を訴えた。
山中教授がSTAP問題に言及したのは理研の検証実験の終了後、初めて。STAP問題について「原因は当事者でないと分からない。なぜ、あのような論文が発表されてしまったのか不思議で、本当に理解できない」と語った。
山中教授は平成18年にiPS細胞の作製を発表した際、自身の実験結果を「疑ってかかった」と話す。実験担当者に何度も確認し、別の研究者に再現してもらったという。「それでようやく、再現性は間違いないだろうと発表した」と述べ、常識を覆すような研究は特に慎重な確認が求められるとの認識を示した。
またSTAP問題などを受け、所長を務める京大iPS細胞研究所で研究不正を防ぐ新たな取り組みを始めたことを明らかにした。実験ノートを提出しない場合は研究不正と見なすほか、論文が科学誌に受理された段階で、図表の生データを知財部で管理・点検するようにしたという。
山中教授は「(指導する)個人に任せるのではなく、組織として(不正を)未然に防ぐ体制を敷いていくしかない。理想論では無理だ」と話した。(黒田悠希)
https://blog.goo.ne.jp/goalhunter_1948/e/5dbddb8efa61a6f2903e2cb5509e41c7 【笹井芳樹氏の「遺書」が示すもの~「事件の囚人」から新たな始まりへ】 2014年12月27日 より
笹井氏の自殺を報じたマスメディアは、その遺書、特に小保方氏宛のものを集中して記事にした。毎日新聞(2014/08/06)によれば、遺書の末尾に「絶対にSTAP細胞を再現してください」、次いで「実験を成功させ、新しい人生を歩んでください」と書かれていた。
当然、話題となったこの遺書から、何を教訓として引き出せば良いのか。
故人が「成功を」と書いた検証実験の終了を待って、理研、小保方氏が何を言うのか、あるいはどんな問題に関して言及を避けるのか、関心を持っていた。
“新しい人生”をスタートさせることができるのか?
筆者は7/27放映のNスペ「STAP細胞 不正の深層」をすべて見ていたのだが、神戸ポートアイランドの医療産業都市構想において建設が進む理研の研究拠点「融合連携イノベーション推進棟」(通称 笹井ビル)をカメラが捉えたとき、STAP細胞事件とそれを取り巻く諸般の事情の全貌を象徴するかの様に、その時、感じた。
『建設中の理研「笹井ビル」が象徴するもの140729』
また、笹井氏の置かれた状況を、以下の三重の“事件の囚人”と捉えた。
1)「小保方氏との関係」
2)「京大(山中教授)との競争」
3)「理研の国家的位置」
『笹井芳樹氏の自死~ポイントオブノーリターンだったのか140805』
次第に事件の真相が明らかになると共に、笹井氏は急速に立場を悪くし、「2)は問題にならず、検証実験は3)の理研の立場を確保するもので、笹井氏に残されているのは1)だけになった」と述べた。
昨日の記事で述べた様に、検証実験は予想通り何も生まずに終わり、小保方氏も、野依理事長も責任ある言明、行動は取らずに研究者達の時間が浪費されただけの様に見える。140805付記事に書いた様に、笹井氏は、この状況を十分に予測できたのだ。それ故の自死であった。
『ES細胞の混入は「毒殺」と同じ手法141226』
そうであるなら、氏は「絶対にSTAP細胞を再現してください」と書きながら「再現できないだろう」と考え、従って「STAP現象の総括ができること」を「実験の成功」と考え、その後は言葉とおりに「新しい人生を歩むこと」と考えて遺書を終わらせたのではないだろうか。絶対的矛盾を冷静に認識し、それを乗り越えるのは「新しい人生」を始めることだと。
ハンナ・アーレントは1951年に出された三巻に渡る浩瀚な著作「全体主義の起源」(みすず書房(1974))の終わりを聖アウグスティヌスの言葉、
「始まりが為されんがために人間は創られた」(第3巻P324)で締めくくった。
更に、「矛盾のなかに自己を喪失しないかという不安に対する唯一の対抗原理は、人間の自発性として「新規まき直しに事を始める」われわれの能力にある。すべての自由はこの<始めることができる>にある。」(同上P292)と指摘する。
しかし、これには厳しい“自己省察”が必須であることは論を待たない。STAP現象の世界においては、それに適う関係者は、残念ながらいなかったのだ。勿論、それは私たちひとりひとりの問題であって、今回の事件を教訓にすることが先ずの出発点なのだ。
https://www.news-postseven.com/archives/20160204_382675.html?DETAIL【故笹井芳樹氏の妻 遺書の真意「小保方氏に伝わっていない」】2016.02.04
2014年、世界中を揺るがせたSTAP細胞論文騒動。その論文の筆頭研究者だった小保方晴子氏(32才)の手記『あの日』(講談社)が出版された。この手記について複雑な思いを抱くのは、理化学研究所の元副センター長・笹井芳樹氏(享年52)の妻・A子さんだ。
笹井氏は小保方氏の上司であり、STAP細胞に関する研究の指導を行っていた。しかし、2014年8月に自殺。まさに、STAP細胞騒動における最悪の悲劇である。愛する家族を失ったA子さんは、小保方氏の手記について女性セブンの取材に応じた。手記そのものは「読みません」としながらも、今の思いを語った──。
笹井氏は確かに小保方氏のSTAP細胞研究に強い関心をよせた。論文執筆を指導し、2014年1月に科学誌『ネイチャー』に論文が採用された際は、自分のことのように喜んだ。
《この日は笹井先生とタクシーで相乗りして帰宅した。「ついに明日が記者会見だね。この1年、本当によく頑張りました」と笹井先生が声をかけてくれた》(手記『あの日』より。以下、《》内同)
《どんな状況にあってもわたしの「先生」でいてくれた》
手記でもそう綴っているように、小保方氏と笹井氏の絆は疑う余地のないものだった。
だが、ふたりの関係は徐々に変わっていった。論文採用の2か月後、STAP細胞論文には「写真の誤用」「コピペ」など、不正が続々と発覚した。
同年4月9日、小保方氏は会見して論文の不備を涙ながらに詫びたが、「STAP細胞はあります」の言葉通り、研究結果の真実性だけは譲らなかった。
「それは主人も同じでした。一緒に仕事もしてきて、自分でも顕微鏡で見ていましたから。当時は大変な時期だったので、彼女も頭が回らなかったのでしょう。あくまでSTAP現象を表す蛍光発色を確認しただけなのに“200回は出来た”なんて言って、誤解を招きましたよね。でも、主人は言うんです。“発色がある以上、まだ可能性はあるんだ”って。あの頃は小保方さんを信じてあげたいという気持ちが勝っていた」(A子さん)
翌週には笹井氏も会見し、「STAP細胞だと考えないと説明がつかないデータがある」と小保方氏を擁護した。
しかし会見後まもなく、彼女のずさんな実験ノートや、早稲田大学大学院時代の博士論文でのコピペ、写真盗用が発覚。ネイチャー論文上でSTAP現象が確認されたとするマウスが現実には違うマウスだったことも明らかになり、笹井氏の心は折れた。
「“これはもう無理だ”って。論文を撤回するしかないと言っていました。あれだけの物的証拠を前にして、小保方さん、そしてSTAP現象自体に対する信頼が失われてしまったんです。彼女は科学者としての基礎的な教育を受けてこなかった。それは否定できないことだと思うんです。データの取り扱いとかプロセスの管理とか、“彼女はあまりにも問題がありすぎる”って、主人の失望は深かった」(A子さん)
調査委員会が立ち上がり、笹井氏にも連日の聞き取りが行われた。A子さんの話に基づけば、当時、彼はすでに科学者としての小保方氏を見限っていたことになる。2014年8月5日、笹井氏は理研の研究棟で自殺した。
《笹井先生がお隠れになった。(中略)金星が消えた。私は業火に焼かれ続ける無機物になった》
小保方氏はあの日の悲劇をこう綴り、数日後、彼からの遺書が届いたことを明かした。当時、遺書にはこう書いてあったと報道された。
「STAP細胞を再現して下さい。それが済んだら新しい人生を歩み直して下さい」
小保方氏は、《内容について一部マスコミの創作があった》と反論した。中身の詳細は手記では触れなかったが、笹井氏が最後に伝えた言葉は、彼女に絶望に抗う力を与えた。
《最後まで、最後の一秒まで、私は逃げずにやりとげる》
心身共に限界を迎えながら、彼女は検証実験に身を投じた。だが、A子さんは、夫が書いた真意が小保方氏には伝わっていないのではないかという。
「主人の遺書にあった“新しい人生を歩んで下さい”という言葉。あれは、“あなたには研究者の資質がないから辞めなさい”という意味なんです。実際、主人は何度も言っていました。“彼女は研究者には向いてない。辞めたほうがいい”って。これが、彼女を間近で見てきた主人が最後に下した結論だったのです」
笹井氏の一周忌も過ぎた2015年11月2日、小保方氏の出身大学である早稲田大学は小保方氏の博士号を取り消した。彼女の研究者人生は、この日、終わった。
※女性セブン2016年2月18日号
https://biz-journal.jp/2016/03/post_14306.html 【STAP現象、米国研究者Gが発表…小保方晴子氏の研究が正しかったことが証明】2016.03.19 00:14
https://www.riken.jp/press/2017/20170316_1/ 【加齢黄斑変性に対する自己iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植-安全性検証のための臨床研究結果を論文発表-】2017年3月16日
理化学研究所 先端医療振興財団 神戸市立医療センター中央市民病院 京都大学iPS細胞研究所 日本医療研究開発機構
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57220140V20C20A3TJN000/?n_cid=SPTMG002
【PS再生医療を安く早く、細胞提供継続へ京大が財団】 2020/3/26 2:00
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京都大学iPS細胞研究所の一部機能を分離した新たな財団法人が4月に始動する。iPS細胞を利用した再生医療の普及に向けて細胞提供事業などを担う。国の予算が2022年度末に切れたとしても寄付金で運営する。再生医療をできるだけ安価にしようと、企業の開発支援なども視野に入れる。
動き出すのは「京都大学iPS細胞研究財団」。京都大学が担ってきた再生医療向けのiPS細胞を製造して備蓄する「ストック事業」を引き継ぐ。政府の予算で運営されており、13年度からの10年間、年27億円の予算を投じる計画だ。これまで18の研究機関や企業などにiPS細胞を分配し、一部は別の細胞に育ててから人に移植された。
ストック事業は当初、10年間で移植した際の拒絶反応が少ないタイプのiPS細胞を140種類備蓄する計画だった。だが細胞の提供を受ける企業などのニーズの変化や、ゲノム編集など新技術の登場などを理由に17年末に方針を転換。現在は国民の多くで拒絶反応が起きにくい数種類のiPS細胞の備蓄や配布、整備した施設を活用した企業支援をしている。
京大から財団に移行する理由は、運営や雇用の自由度を高めてiPS細胞を使う再生医療の開発を促すためだ。国の予算は期限があり、事業継続が難しい。自ら運営資金を稼ごうにも、京大内の組織では営利事業ができない。これらの課題を解決し、公的な立場でiPS細胞を安価に供給し続けるため財団として自立することになった。備蓄事業は研究の意味合いが小さく、大学が取り組むことは不適切という指摘もあった。
19年8月に文部科学省の専門部会で了承され、9月に財団が設立された。22年度末に国の予算が途切れても、京大が集める寄付金で事業を継続する。寄付の残高は約180億円あり一部を財団に移す。
財団は企業の臨床開発支援に力を入れる方針だ。京大では数年前から軸足を移しつつあった。18年から武田薬品工業に協力して、再生医療製品の原料となるiPS細胞を蓄える「マスターセルバンク」を京大内に構築することに着手した。キリンホールディングスとは19年に臨床試験(治験)用の製品開発の共同研究を始めた。
財団では細胞の安全性評価や技術指導、コンサルティングなども手掛ける方針だ。将来、財団のiPS細胞を使って製品化した企業に対しては、一定の報酬を要求し運営資金にする考えだ。
京大iPS細胞研所長の山中伸弥さんは「良質な再生医療を安く早く患者に届けたい」と強調する。財団の事業を通して、低コスト化に貢献したいと考えている。
近年、先端医療の高価格化が進む。遺伝子治療薬では2億円を超す新薬が米国で登場した。米国では製薬会社が自由に価格を付けられるのに対し、製造原価などをもとにする日本の薬価制度ならば低額になる場合がある。米国で開発した物を輸入するのではなく「日本で最初に開発すれば安価にできるのではないか」(山中さん)という考えだ。
米国では、医薬品開発に関わる優れた技術を持つスタートアップ企業を大企業が買収し、高額薬の開発につなげている。山中さんは財団を使って、iPS細胞を使う再生医療を安価にするビジネスモデルを実現したいと考えている。財団は寄付を中心に運営して安価にiPS細胞を提供し、企業の技術支援をすることで原料費や開発費を低減し、製品価格を抑えるのにつなげたいという。
財団には細胞の品質向上が求められる。17年には、京大が配布したiPS細胞の作製過程の品質管理に初歩的なミスが見つかり、配布を一部停止した。再発防止策をまとめて供給を再開したが、臨床研究の遅れを招いた。
iPS細胞を利用した再生医療については、患者での臨床研究や治験がいくつか進んでいる。ただ、安全性や効果の詳細な確認はこれからで、再生医療が普及するかどうかはまだ分からない。企業支援などの財団の新たな取り組みについて山中さんは「結果が出るまで10年程度の時間がかかる」とみている。(岩井淳哉)
■iPS細胞の再生医療
iPS細胞は心臓や目、神経など様々な細胞に変わる能力がある。培養条件などを整えると狙った細胞を作れる。病気などで機能が衰えた臓器などを置き換える再生医療の切り札として期待を集める。
理化学研究所は14年にiPS細胞から作った目の細胞を、難病の加齢黄斑変性の患者に移植する世界初の臨床研究を実施した。これまでに京大は脳、大阪大学は目の角膜や心臓の病気の患者に移植手術をした。慶応義塾大学の脊髄損傷や心臓、京大の軟骨などの再生医療の研究でも、近く移植が始まる見通しだ。
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