https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/post-92466.php【新型コロナウイルス、急拡大の背景に排泄物を介した「糞口感染」の可能性も】2020年2月21日(金)
<中国の研究チームが感染者の便からウイルスを検出したと報告、「糞口ルート」の感染可能性を指摘>
世界で2000人を超える死者を出している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、科学者たちは、排泄物を介して感染が広がる可能性があると考えている。
中国の保健当局が新型コロナウイルスの存在に気づいたのは2019年12月上旬。湖北省・武漢市の市場で働いていた複数の人が原因不明の肺炎を発症したことがきっかけだった。WHO(世界保健機関)が報告を受けたのは12月末で、その後、専門家たちが研究を行っているものの、いまだ感染経路は完全には解明されていない。
同ウイルスに感染すると熱や乾いた咳、息切れなどの症状を発症し、重症化すると死に至る場合もある。これまでに7万5000人を超える感染が確認されており、その大部分が中国本土に集中しているが、ほかにもアメリカをはじめ25を超える国や地域に感染が拡大している。WHOはこの新型コロナウイルスについて、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)といったその他のコロナウイルス同様に、咳やくしゃみの飛沫や、感染者およびウイルスが付着した表面との濃厚接触を介して広まるものと考えている。
だが一部の専門家は、これらに加えて感染者の排泄物を介してウイルスが広まる可能性もあると考えている。
感染者の便からウイルスを検出
中国疾病対策予防センターは2月15日に報告書を発表。この中で、黒竜江省北東部の19人の感染者の便から新型コロナウイルスが検出されたと明らかにした。報告書を執筆した研究者たちはこれを受けて、同ウイルスが「経口感染(糞口感染)する潜在的可能性がある」と考えている。経口感染とは、ウイルスが汚染された手指、食べ物や水を介して鼻や口、目から体内に入る感染ルートで、特にウイルスを含む糞便が手指を介して口に入る経路を糞口感染という。
研究者たちは、最も多いのは飛沫や濃厚接触を介した感染だが、それでは全ての感染例や「急速な感染拡大」の説明がつかないと主張。「このウイルスには数多くの感染経路があり、それが感染力の強さや急速な感染拡大の一因だと考えることができる」と指摘した。
17日には別の研究者たちが、論文審査のある学術誌「Emerging Microbes & Infections」に論文を発表。これも同様に、同ウイルスを含む糞便が口から体内に入ることで感染する可能性があることを示唆する内容だった。研究チームが同ウイルスの発生源とされる武漢市の病院で感染者178人の肛門から検体を採取したところ、ウイルスが検出されたという。
「口腔と肛門から採取した検体、および血液サンプルから、ウイルスが検出された。つまり新型コロナウイルスは、呼吸や糞便、体液を介して感染する可能性があるということだ」と研究者たちは書いている。
さらに19日には、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)に掲載された論説の中で、「糞便を介した感染の可能性を提起した」1月下旬の研究報告が紹介された。
この研究報告は、論文審査を受けていない原稿の段階で論文サイトbioRxivが発表した。新型コロナウイルスの感染が急速に拡大するなか、専門家たちがいちはやく論文原稿を読んで新たな所見について議論できるようにするためだ。
研究チームは、感染者の体の複数カ所から検体を採取して、ウイルスが細胞に入り込むのを手助けする酵素が活発かどうかを分析した。その結果、この酵素が肺だけでなく消化器官にもあることが分かった。このことは、COVID-19が消化器官に潜んでいる可能性もあることを示していると彼らは指摘した。
COVID-19が排泄物を介して広まる可能性について懸念が高まったきっかけは、香港で同じマンションの別々の階に住む2人(2人の部屋は10階も離れている)の感染が確認されたことだった。2003年のSARS流行時にも同じようなことがあり、この時は香港にある集合住宅の入居者329人が劣悪な配管を通じて感染し、42人が死亡した。香港当局は、建物の条件やウイルスの性質が異なるためSARSの時と今回のケースを比べることはできないと指摘。その後、ほかの住民101人から採取したサンプルの検査を行ったところ、いずれも陰性だったと声明を出した。
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