http://www.tdcigh-circ.jp/news/news_01.html 【『知っておきたい新型コロナウイルス感染症COVID-19』】 2020.4.20 循環器内科 大木貴博
新型コロナウイルス感染症は大きく社会を揺るがせています。その重大性から毎日のように報告、報道がなされ、膨大な情報が発せられています。ここに今わかっていることから私見をまとめてみました。
【新型コロナウイルス感染症とは】
感染症は人から人にうつる可能性のある病気です。伝染病や疫病という言い方もあります。高血圧や糖尿病、心臓病や腎臓病など、薬を飲み続けて良い状態を保つという病気と違い、感染した病原体が身体からいなくなれば原則として治ります。一度身体に住み着いた病原菌が身体にいなくなるには、身体が免疫という機構によって病原菌を完全に死滅させなければなりません。まれにひどい感染症によって後遺症を残す場合もありますし、なかなか病原体が完全には消え去らず、軽快と再燃ということを繰り返す場合もあります。旧型のコロナウイルスはこれまでいわゆる風邪を起こすウイルスとして知られていましたが、今回従来のコロナウイルスが突然変異を生じて新しいタイプの感染症を引き起こす様になっています。いつ、どのような変異を、どこで起こしたのかは今のところわかっていません。
新型コロナウイルスについては未だ詳しい性質がわかっておらず、どのようなタイプの感染を生じるか不明です。免疫が働きにくく、完全に治癒することはできないといった、非常に悪質なタイプの可能性もあります。一度陰性となった方が再び陽性となることがあり、一部の方には持続感染という現象が起きている可能性さえ考えられます。たとえば肝炎ウイルスのように、抗体ができていても体内にウイルスが残る場合もありますし、帯状疱疹のようにほぼ一生ウイルスが体内の奥に潜み、体力が低下したときに繰り返し出てくるというようなものもあります。新型コロナウイルスがどのような感染をするのか明らかになっていない以上、感染しても風邪のように症状が軽く済んでしまうのならば、かかってしまっても良いなどと考えるのは危険です。
【新型コロナウイルスの感染経路】
感染の病原体には細菌、ウイルス、カビ、その他の虫などがあります。多くの感染症は細菌かウイルスによるものです。細菌は複雑な一つの生命体であり、食べたり消化したり、生きて動き回っています。それでも非常に小さく、0.001㎜くらいです。それに対してウイルスは、生きていると言ってもごく簡単な構造に遺伝子が入っているような姿で、大きさは細菌の1/10〜1/100以下、0.0001㎜くらいで、通常のマスクは簡単にすり抜ける大きさです。新型コロナウイルスは普段どのような姿で生きているか詳しいことは不明です。ヒトの唾液など水分と共に生きているのか、ホコリなどに付着して空中を浮遊しているのかわかりませんので、マスクがどの程度有効かもわかっていません。少なくとも感染者のくしゃみ、咳などでのウイルスの放散量はかなり減少します。現在までにわかっている感染の状況を見てみると、ウイルスの付着した体液等への接触感染はもちろん、くしゃみ・咳などでの飛沫感染のほか、空気感染を起こすと言って良いような状況も見受けられます。ホコリなどと共に長時間空中を漂っている可能性が示唆されており、狭い空間で換気の悪いところではコロナウイルがいつまでも空中に無数に飛んでいると考えた方が良いでしょう。換気をしていない車内、エレベーター内も注意が必要です。カラオケボックスのような音が漏れないようにしている施設は空気が漏れにくく、つまり換気が悪くなります。冬には室温が下がらないように暖房をかけながら密閉されること多くなりますので換気が必要ですし、夏には冷房をかけながら室温が上がらないように部屋を密閉することは危険なことになります。常時換気をしておくことが必要であり、更に飛沫や接触を避けるように気を付けることが重要です。会話をすると必ず飛沫が飛んでいるので、お互いマスクを付けることは思いやりです。やむを得ず接触した場合にはこまめに手を洗うよう心がけましょう。屋外ならば感染の危険性は低くなりますが、どこかでくしゃみや咳をした人の空気がまとまって飛んでくればそれを吸い込んで感染してしまう可能性がありますので、屋外でも人の密集する場所は避けるべきです。ジョギングなどしていても前を走っている人の汗や吐息を吸い込む可能性があるので注意が必要です。みだりにいろいろなところに触れないようにするのは当然です。
【新型コロナウイルスが起こす病気】
病原体が身体のどこかに入り込んで、健康を害すると感染症にかかった状態となります。感染するとその臓器に炎症が起きます。新型コロナウイルスは肺炎、心筋炎、髄膜炎などを起こすことが知られています。心筋が新型コロナウイルスに侵されると心臓が急激に動かなくなり、急速に死に至ることがあります。新型コロナウイルスが髄液入ると重篤な意識障害、神経系の障害が起こります。多くの感染者では肺が侵され、酸素を身体に取り込む呼吸機能が損なわれますが、身体では酸素が消費し続けられるので、身体の酸素がどんどん低下し、低酸素血症と言われる状態になります。重度の低酸素血症が生じると全身に酸素が行き渡らなくなり、脳は低酸素に陥り意識が低下します。それぞれの内臓も必要な酸素が不足するため、肝臓や腎臓など多臓器が失調します。血圧や心拍数などを保つ機能さえ損なわれ、やがて血流は低下し、多臓器不全の状態となります。多臓器不全に陥ると、救命できる可能性は低くなり、高齢者など体力が低下している人ではほぼ9割方が亡くなります。
【新型コロナウイルスの恐ろしいところ】
体内に新型コロナウイルスが入り込み、どこかの臓器で増殖していても、本人は全くそれに気づかないことがあります。症状のない保菌者であり、目に見えないと言う意味で、不顕性感染と言います。不顕性感染している人の体内にはウイルスがいて、その人の唾液や汗、あるいは吐息などにもウイルスがいると、知らず知らずのうちに他人にウイルスをまき散らしてしまっている可能性があります。不顕性感染の人から感染したからといって、うつされた人も不顕性感染であるとは限りません。うつした人は無症状ながら、うつされた人は重度の肺炎になることもあり得ます。元気そうに見えている人でも体内には新型コロナウイルスが潜んでいる可能性があるのです。そのため誰が感染しているのか、誰が感染していないのか全くわからず、誰からうつされたかもわからないまま、突然肺炎を発症することがあります。それが感染源不明の患者さん達です。感染源不明の患者さんが多くなると言うことは、潜在的な不顕性感染の人が多いことが想像され、感染が社会に蔓延していることを示します。
【新型コロナウイルス感染症の症状】
不顕性感染の患者さんが多い一方、発熱、倦怠感、咳、および味覚や嗅覚の低下などの症状を有した顕性患者さんも相当数います。症状は人によってさまざまで、微熱が数日続く人から38℃以上の発熱が1週間も続く人まで、喉が痛くなる人がいたり、咳がひどい人がいたりと、おおむねいわゆる風邪の症状に近いものです。新型コロナウイルス感染症特有の症状というものはなく、風邪かなと思われて感染に気づかない患者さんを多くしている一つの原因となっています。顕性感染と不顕性感染の割合はわかっていませんが、偶発的に発見される不顕性感染が報告されていることから、全体に対する不顕性感染の割合はかなり多いことが想像されます。顕性となるのは全体の1割程度、9割、あるいはそれ以上が不顕性である可能性さえあるのです。更に、潜伏期間がどのくらいかもわかっていません。潜伏期間とは、ウイルスが体内に入った時から何らかの症状が出現するまでの時間のことですが、何の症状も出現しない不顕性感染者が多数いる以上、統計さえ取るのは困難です。一説には潜伏期は2週間、あるいはそれ以上とも言われています。潜伏期間中でも人にうつしてしまうことがあるとも言われていますが、潜伏期なのか、不顕性感染なのかわからないので、それも正しいことはわかりません。正確なことは研究の結果、数年後に判明します。厚生労働省から発表される患者数は顕性患者数ですから、不顕性患者さんはその数倍いて、潜伏期間の患者さんを含めると、全体の感染者数は発表数の数十倍なのかも知れません。こうしたことが新型コロナウイルス感染症への対応策を難しくさせ、先進国であっても油断をするとパンデミックを生じてしまうのです。現在までの報告から推察すると、症状のある人では潜伏期は平均5日間ほどかと思われます。ウイルスが体内に入ってから約5日で何らかの症状が出現し、風邪かな、と思って医療機関を受診し、その後数日様子を見ているうちに肺炎などを発症し、そこで検査を受けて1〜2日で陽性と判断されているようです。
【新型コロナウイルス感染症重症化】
ウイルス性肺炎は新型コロナウイルスに限らず、細菌性肺炎や誤嚥性肺炎と異なり、今のところ特効薬がありません。感染が持続するとは肺機能が低下して体内へ酸素の取り込みができなくなり、低酸素血症を生じ、重篤化すると酸欠のため死亡します。新型コロナウイルス肺炎では低酸素血症の程度が重症度と言って良いでしょう。空気中には約21%の酸素が存在して、普段ヒトはそれを吸って生きていますが、21%の酸素では足りなくなると、鼻に付けたカヌラというものから高濃度の酸素を補充します。それでも足りなくなると酸素マスクにすると、より高濃度の酸素が補充できます。それでも足りなくなると人工呼吸器を装着します。人工呼吸器は口から気管に直径7㎜ほどの太い管を挿入し、管を通して肺に圧力をかけて酸素を投与することで、高率的に肺に高濃度酸素を送り込むことができますが、通常気管に管を入れていることに人は耐えられません。そこで麻酔薬を使って眠った状態にしておきます。人工呼吸器装着には気管に管を挿入する技術、人工呼吸器装置の取り扱い、麻酔薬の調整など、一気に人手が必要になります。人工呼吸器で100%の酸素を与えても低酸素となってしまう場合、もはや肺には酸素を取り込む能力がなくなったと判断され、人工肺を装着します。太い血管に管を入れて血液を吸い出し、人工肺にその血液を通して血中酸素濃度を上昇させ、もう一本太い血管に入れられた管を通して体内に戻します。人工肺(ECMO)の取り扱いは人工呼吸器より遙かに高度で、専門的技能を必要とします。重症化は多くの症例で非常に早く、朝は酸素不要であったのに、夕方には人工肺が必要となる人もいます。一般に高齢者や持病がある人は重症化しやすい傾向にあると言われています。免疫力、体力が低下していると重症化する可能性があるという意味ですが、重症化した人は免疫力、体力が低下しているため自然治癒する力が低く、必然的に死亡率が高いということになります。若くて体力があっても、ウイルスの抵抗力がない人は治癒力が低く、重篤化します。高血圧や糖尿病といった生活習慣病の方は、健常な方と重症化のリスクはほとんど変わりないと推察されますが、狭心症、心筋梗塞、不整脈といった心疾患をお持ちの方は重症化のリスクが高く、重症化すると死亡率が高いことになります。感染しないことが最大のリスク軽減の方策です。
【新型コロナウイルスの診断】
新型コロナウイルス感染症には特有の症状がないので、この症状があれば感染していると断定できる症状はありません。つまり病歴から感染を断定することはできず、ウイルスが体内にいることを証明して初めて診断可能になります。ウイルスが体内にいるかどうか調べるには、直接ウイルス自体を見つける方法と、ウイルスが体内に入った時の身体の反応を利用した間接的な方法があります。直接的な方法では、ウイルスが体内のどこに潜んでいるかによって、検査の精度が落ちることもあります。炎症が起きているところから検体を採取して検査するのが効率的です。新型コロナウイルスは血中、喀痰中に多く潜んでいると考えられるので、血液や痰を採取して、中にウイルスがいるか検査します。体内には数億という数のウイルスがいると思われますが、少量の血液や痰の中にはごくわずかしかおらず、少なすぎて検出することができません。そこで取り出した検体にポリメラーゼという特別な物質を加え、鎖のように長いウイルスの遺伝子を増殖させてから検査します。この方法をポリメラーゼ鎖反応(PCR)と言います。PCRによってウイルス遺伝子が多くなり、装置で検出されれば検査陽性となります。検出されなければ陰性と言います。間接的な検出方法は、身体にウイルスのような異物が入った時に免疫機構が働くことを利用します。ウイルスが体内に入ると、それを攻撃する目的で抗体というものが作られます。インフルエンザにはインフルエンザ抗体、コロナウイルスにはコロナウイルス抗体のように、病原体によってできる抗体は異なるので、新型コロナウイルス抗体が検出されれば、新型コロナウイルスが1度は体内に侵入したことを意味します。抗体は病原体が身体に入ってから数日で検出されるようになり、多くの抗体は数ヶ月、数年血中に存在します。ただし、抗体の存在は免疫反応を生じたという事実のみを示すので、治癒しているかどうかは別になります。抗体があるからといって治ったとは限らないのです。新型コロナウイルス感染症は無症状の場合もあることを考えると、そもそも治癒とは何を意味するのかさえ不確定な、とてもやっかいな感染症です。
【新型コロナウイルス感染症の今後】
感染の伝播状態、予想にはいろいろな推計方法がとられていますが、正確に予想することは非常に困難です。横浜のクルーズ船から推定してみます。クルーズ船には3700あまりの人乗っていましたが、3000件あまりの検査により600件ほど、つまり約20%の陽性者が確認されました。クルーズ船が一つの社会で、一定の感染対策がなされた世界であり、現在の日本社会の一つのサンプルとしてとらえたならば、人口のおよそ2割が陽性となると想像されます。50万人の市川市においては10万人が陽性となる換算です。更にその20%が重症化するならば、2万人が重症化します。死亡率が2%とすると2000人が死亡します。東京都では200万人が陽性となり、4万人が死亡するかも知れません。クルーズ船をサンプルにする根拠もありませんので、あくまで可能性を示した数字ですが、いずれにしても非常に多くの方が重症化したり死亡したりする可能性があるということです。陽性者を隔離することは、陽性者があまりに多く不可能です。市川市で10万人を収容できる場所はありません。
また過去のペストやスペイン風邪などの疫病の動向を見ると、大きなパンデミックを生じた感染症は必ず第二波、第三波があります。封鎖や自粛により第一波が沈静化しても、根絶できない限り数年にわたって流行は続きます。それだけに社会の経済的影響が甚大であり、政治的混乱も生じることになるでしょう。
【新型コロナウイルス感染症の治療】
ウイルス感染症の治療は、体内からウイルスを除去することが目的ですが、その方法には、ウイルスを直接攻撃して破壊する方法、ウイルスの増殖を抑制して身体の免疫力に頼る方法、および免疫力を増強する方法などがあります。新型コロナウイルスを直接攻撃する薬剤は今のところ見つかっていません。増殖を抑制する薬剤として、既存の他のウイルスの増殖を抑制する薬剤の効果が試されているところです。免疫力を増強する方法としてワクチンや薬剤がありますが、いずれも開発中です。新しいワクチンや薬の開発には長い年月を要しますので、今のところ他のウイルスに対する治療薬を使用する方法が一番期待されています。
【新型コロナウイルス感染症の今後】
あるウイルス感染症にかかって、2週間でウイルスが免疫の力で完全に死滅して治癒すると仮定するならば、もしその2週間の間に全く誰にも接触せず、会いもせず、触ったものが他の人に渡ることもないような完全ロックダウン状況が作れれば、いかに大きなパンデミックがやってきていたとしても、2週間後には世の中からウイルスは消失しているため、理論的にはたったの2週間で流行は完全に終息します。新型コロナウイルス感染症においても、そのような完全ロックダウンによる対処方法はかなり有効であると考えられます。歴史的にもパンデミックがやってきたとき、人はそうして伝染病に対抗してきました。しかし前述したように、持続感染の可能性があることや、完全なロックダウンがなし得ないため、2週間で完全終息させることは不可能です。ロックダウンに可能な限り近い状態を作ることによって、少しでも早い終息が図られています。ロックダウンに近い状態が作れない場合には感染は延々と収束せず、第二波、第三波を形成してしまいます。現在の医療態勢でも対応できるくらいに患者数を減らさなければなりません。既に多くの感染者が見つかっており、このままで推定される感染者は医療資源を大きく超える数です。
【最後に】
以上のように、新型コロナウイルス感染症はとてもやっかいな感染症であり、私達の歴史の中でも最大級の世界的大災害です。感染症であるが故に、お互いに助け合うことや絆を強くつなぐことが難しくなりがちです。しかし幸い、私達人類はこれまでかなり科学を発展させて来ました。ウイルスは宿主であるヒトを根絶やしにすることはありませんし、これまでの全ての伝染病と同様に、医学的な解決は必ず成されます。それまで通常の診療ができなくなっていることを、どうかご理解のほどお願い申し上げます。
感染する人は一部でも、引き続く経済的困難や政治的困難といった社会の混乱は全ての人の生活に影響を及ぼします。距離が離れていてもお互いを思いやり、ひとりひとりの役割を果たして行きましょう。
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